ガーデン14
そんな話し合いがありはしたが、シロッカスはヒヅキを気に入ったのか、それからの3日間はヒヅキはシロッカスの家で世話になった。
その際、ヒヅキはシロッカスに、何故会ったばかりの自分をここまで信用してくれるのか?という意味の質問をしたのだが、その時の返答はこうだった。
『アイリスが君を信用しているというのが一番の理由かな。親の贔屓目無しに、あの娘の人を見る目は確かだからね。それに、私は長いこと商人をしているのでね、信用していい相手かどうかの見極めぐらいは出来てるつもりだよ』
そう断言されて、その時のヒヅキは困ったように頭をかいたのだった。
シロッカスの家で過ごした3日間は、大半をアイリスと共に過ごした。というより、アイリスに振り回されたといった方が正確かもしれない。
ヒヅキはアイリスと会った時に見た、オロオロとしていた黒服たちの姿を思い出して、こういうことかと妙に納得したものだった。
そして3日が経ち、説明の通りに予定が進み、仕事の日となった。
ヒヅキとシロッカスは連れ立って、人足や他の護衛を務める人たちとの集合場所に移動する。
集合場所には、人足の人たちが既に集まり武器を荷車に積めたり、ちゃんと数があるのかの最終確認を行っていた。
その人足の人たちは、シロッカスを見ると一旦手を止め、深々と頭を下げていく。
それにシロッカスが応えている間に、ヒヅキは人足たちの作業を少し離れた場所で見ている三人の護衛の人たちに目を向けた。
一人目は身軽な服装に身を包んだ、スラリとした銀髪長身の神経質そうな男だった。
その銀色の髪は腰の辺りまで伸ばされ、その髪を首の後ろ辺りで一纏めにしていた。
輪郭は少し細長く、目元は見られた子どもが泣き出しそうなぐらいの鋭さがあった。
ヒヅキは見ただけで相手の力量がはっきり分かるわけではないが、それでも、その男は強そうだと感じた。
二人目は背丈は高くもなく低くもなかったが、頑丈そうな若草色の全身鎧を身に纏っていた。
兜は小脇に抱えていた為に、顔だけは露出していたが、その顔には深くシワが刻まれ、それなりの歳だと言うことが窺えた。
顔つきの方は威厳があり、視線はそれだけで人が殺せそうなほどに鋭く、まさに歴戦の勇士という感じであった。
三人目は、小柄な少女だった。
背丈はヒヅキの胸元よりも低く、冒険者のルリよりは高そうだが、どうみても外見は幼女であった。
それは顔つきも丸びを帯びていて、まだ幼さを残しているのも相まっているのだろうが、その見た目に反して、ヒヅキには彼女が三人の中で一番の実力者のように思えた。
「待たせてしまってすまないね」
護衛の人たちを観察していたヒヅキが、横合いから掛けられたその声に目線を向ければ、人足たちとの挨拶を終えたシロッカスが申し訳なさそうにしていた。
「いえ、お気になさらずに」
それにヒヅキは軽く手を上げ、気にしていないという手振りをしつつ、微笑みながら首を横に振った。
「そうかね?そう言ってもらえると有難い。荷造りの方はもうすぐ終わるから、出発の準備をしていてくれ。私はその間に護衛の方々にも挨拶をしておこうかね」
そう言って歩き出したシロッカスに、ヒヅキは「私もご一緒させてください」と断りを入れてから、許可をもらって同行したのだった。