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テトラ21

 頭上に生っている果実を眺めながら、ヒヅキはどうしたものかと思案する。確かに確認は必要だとは思うが、安全かどうかは女性の言しか根拠がない。

 その為の確認なのだが、どうしてもそこでどうしたものかと思案してしまう。ここでヒヅキが動けなくなったとしても、女性が何かをするという事はないとは思うが、それでも不安は残る。

 しかし、いつまでもこうして果実を眺めている訳にはいかないので、小さく息を吐いて女性へと顔を向ける。

「では、少し食べてみようと思います」

「そうですか。何かあっても介抱しますのでご安心を。果実自体はそのまま食べても問題ありませんが、軽く拭くぐらいはした方がいいですよ。それと多くは口にせずに、出来れば1粒を少し齧る程度に留めておいた方が賢明かと」

「ご忠告ありがとうございます。何かあった時はよろしくお願いします」

 女性へとそう告げると、ヒヅキは立ち上がり木に近づく。

(さて、まずはどうやってあそこまで登るかだ)

 実が生っているのは少し高い位置なので、跳べば手が届くという訳ではない。森の時の様に脚力を強化して跳ぶという方法もある。幸い地面は硬いので、出来るだけ平らな場所を選べば問題はないだろう。

 木の幹はつるつるしているように見えるので、登るには適していなさそうだ。

 何か投げる物はと周囲を見てみるも、葉っぱぐらいしか落ちておらず、石どころか枝や実さえなさそうだった。

 そんな風に周囲を見回しているヒヅキを見た女性は、少し考えて声を掛ける。

「実を採る方法がないのですか?」

「いえ、枝の上に跳んでいけばいいので、方法がない訳ではありません」

「では、何か問題が?」

 不思議そうに尋ねる女性に、ヒヅキは小さく苦笑する。枝の上に跳んで実を採る事に問題はない。地面は硬く、枝のある高さも届かないほどではないし、今更その程度の実力を隠すほどでもないのだから。だが正直。

(面倒なんだよな)

 その一言に尽きた。身長よりも遥かに高い場所に在る枝の上に跳ぶ。いくら身体を強化していようとも、それでも十分に力を使う。それは重労働というほどでもないし、ヒヅキにとってはそれぐらいは大した事ではないのだが、それでも石などを投げて実が採れるのならそれの方が遥かに労力は少ない。それどころかヒヅキにとっては、枝の上に跳んで実を採るよりも、木を光の剣でそのまま斬り倒した方が圧倒的に楽であった。

 それでも周囲には投擲出来そうな物はなく、実をひとつ採る為だけに木を斬り倒すのは流石に忍びない。かといって他に方法も思いつかないので、結局は跳んで実を採りに行くしかなさそうであった。

 そう思い、ヒヅキが面倒そうに息を吐いたところで。

「では、私が採ってきましょうか?」

「え?」

 曖昧な表情を浮かべるだけで何も答えないヒヅキに、女性は軽い調子でそう提案する。しかし、その提案はヒヅキにとっては予想外だったようで、軽く目を見開き驚きを表す。

 その様子がおかしかったのか、女性は小さく笑みを零してから言葉を返す。

「提案したのは私ですから。それに、それぐらいは大した労力でもないので」

 一瞬、自分の心の中でも覗いたのかとも思ったヒヅキだったが、偶然であろうと直ぐに思い直す。

「いいのですか?」

「ええ」

「……では、お願いします」

 微笑む女性に頭を掻いたヒヅキは元の場所に戻り、後を女性に託す。そこでヒヅキは、そういえば女性の実力を見た事はないなと思い出したので、その一端でも窺えたらいいのだがと思う。

 そうして場所を入れ替えると、女性は頭上の果実を確認するように視線を上げた。そして。

「はい、どうぞ」

 振り返った女性は、そう言ってヒヅキへと手を差し出す。

 視線を向ければ、確かにその手の上には頭上に生っている果実と似たようなモノが2粒載っていたが、ヒヅキにとってはそれどころではない。なにせヒヅキには、女性が視線を上げて振り返っただけにしか見えず、それ以外に何をしたのか全く分からなかったのだから。

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