テトラ20
休みなしでそれなりに長く歩くと、次の山に到着する。
ヒヅキは途中で歩きながら魔力水を飲んでいたが、そういえば保存食はほぼ全てフォルトゥナに預けていたなと思い出していた。現在手元にあるのは、非常時用にと持っていた僅かな保存食だけ。それでもヒヅキであれば結構な日数保つのだが、それでも何処かで1度補充はしておきたいところであった。
山は前回通った山と大して変わらないようで、高低差の大きな道が続く。木々も見た目は前の山に生えていた木と同じようなモノだが、頭上に目を向ければ、葉っぱの形が少し異なっていた。
実の付け方は同じだが、こちらは色が少々明るい。
向こう側は完全に水分の抜けた木肌の様な色合いだったが、こちらはまだ水分が抜けきっていない木肌の様な色合いだった。どちらも寂しげな色合いではあるが、こちらの方が少し色がはっきり出ているので、並べられても見分ける事は出来そうだ。
足下は土なのだが、まるで石の上を歩いている様に硬い地面。向こう側の山も似たような感じではあったが、ヒヅキはよくこれで木が育つものだと感心する。根を張るだけでも苦労しそうなのは容易に想像できる。
そんな道だが、女性は気にせずすいすいと進んでいく。その様子は、慣れた道を進んでいるというよりも、地形など関係ないかの様に滑らかだ。
「……………………ふむ」
後に続きながらその様子を眺めていたヒヅキは、少し考えるような声を漏らす。
(同じという訳ではないが、何処となくスキアに似ているようにも思える。本質的に近いという事か?)
スキアは今の神が創った存在らしいので、女性とは別ではあるだろう。女性は今の神とは関係ないようであるし。それでも根本の部分で近しい存在である可能性は高かった。それでも女性が神の敵である事に変わりないので、あまり気にしない事にしたが。
女性はすいすいと先へと進んでいくが、ヒヅキはそうはいかない。今まで休み無しでずっと進んでいたので、そろそろ少し休憩を入れたかった。
そう思いヒヅキが声を掛けようとする前に、ヒヅキの歩く速度が若干落ちた事に気がついた女性が振り向いて問い掛ける。
「そろそろ休憩しますか?」
「はい。少し疲れました」
そう言って力なく笑うと、女性は少し申し訳なさそうにしながら周囲を見回し、少し先を指差した。
「向こうに休むのに丁度よさそうな場所が在ります。そこで休憩しましょう」
女性はヒヅキが頷いたのを確認すると、前を向いて歩き出す。
その後に続いてヒヅキが進むと、直ぐに狭いながらも平らな場所に到着する。
そこに背嚢から出した防水布を敷いて腰掛けると、ヒヅキは水筒に魔力水を補充していく。
それが終わったところで、保存食をひと欠け取り出してそれを口にする。その後に魔力水を飲むと、ヒヅキは休憩のついでとばかりに女性に質問する事にした。
「前に果実同士を混ぜて作る物をこの辺りの魔族は飲んでいるという様な話をしていましたが、それは私が飲んでも大丈夫なのですか?」
「ええ、問題無いと思いますよ。魔族と言いましても、魔法の扱いに長けた人間のようなモノですから。一部翼や角が生えていたり肌の色が青かったりなどはありますが、それはあくまで一部ですし、そういった者達はほとんどが中央に居るので、この辺りで見かける魔族は貴方と然して変わりませんよ」
「そうなんですか?」
「ええ。それに、貴方は保有している魔力量も多い。魔族の中では平均的かやや少ない方ですが、それでも違和感はないでしょう」
「はぁ。なるほど」
女性の説明にヒヅキが頷くと、女性はおもむろに視線を上に向ける。
「そんなに心配であれば、今少し食べてみますか? あれはそのままでも食べられますから……まぁ、もの凄く苦いので覚悟は必要かもしれませんが」
その言葉を受けて、ヒヅキは女性の視線の先に顔を向ける。そこには山に入って直ぐに確認した果実が、変わらず枝にびっしりと生っていた。




