テトラ19
ヒヅキはうーんと唸るも、別に助ける必要は無いし、そもそも助けるつもりもない。ただ見つけたので気になっただけ。
それでも相手は始めて会う魔族なので、村に行く前に1度見ておきたいという思いもあった。しかし少し考えた後、ヒヅキは先へと進む事に決める。
「よろしいのですか?」
先に進むと決めたヒヅキへ、女性が問い掛ける。その言葉に、別に急ぎの用件がある訳でもないので、あれだけ悩んでいたのだから多少寄り道するぐらいは問題ないといった意味が含まれているように感じたヒヅキは、首を横に振って口を開く。
「問題ありません。何か居たので気になっただけなので」
「そうですか」
それだけ言うと、女性は先へと歩き出す。
ヒヅキはその後に続いて進みながら、近くの木を見上げてみる。視線の先には、緑が乏しく、まるで枯れる寸前のような寂しげな木々が立ち並ぶ。
その木々の上部には、ほとんど全ての木の枝にびっしりと小さなコブのようなモノがくっ付いていた。人によっては怖気が走りそうな光景だが、高いところの枝なので距離があり、見上げただけでははっきりとは確認出来ない。
他には何かないかと思ってヒヅキは頭上で視線を動かすも、あとはところどころに葉が付いているだけで普通の木だ。
(という事は、あのコブのようなモノが全て果実?)
コブ以外には何も無いのでおそらく間違いないだろうが、そうだとしたら数がかなり多い。枝一本に数百もしくは数千ぐらい付いているのではないだろうかと思わせるほどに、ボコボコと泡立つように木の枝にコブが張り付いている。
(あれが食べられるのだとしたら、食料には困らないだろうが……)
そう思うも、女性はあの果実は単体では味が悪く、栄養価も低いと言っていたので、あれだけでは一時的に空腹を紛らわすのが精々なのだろう。しかし、別の山にもこんなものが生っているらしいので、それと一緒に潰して混ぜればいいのだとしたら、食料としては十分かもしれない。潰した後の皮なども食べれば腹には溜まるだろう。
(別の山の果実もこれと似たようなモノと言っていたから、生り方こんな感じなのだと思うし。しかしまぁ、混ぜて発酵させた物の味はどうなのだろうか?)
単体では不味いという話ではあるので、不味い物同士を混ぜ合わせても美味しくはならないだろうが、それでもこの辺りの魔族はそれを常飲しているようなので、飲めないほど酷い味ではないと思われる。
村の方に顔を向けたヒヅキは、村に到着したら飲む機会があるのだろうかと、好奇心から僅かに期待する。それでも不味かったら困るなと思うと同時に、ヒヅキは人間なので魔族の飲食物を口にしても大丈夫だろうかと考えた。
(それは村に到着する前に女性に尋ねてみるか。何か分かるかもしれないし)
ヒヅキは自分よりも魔族に詳しい女性に尋ねればいいかと思うも、仮に分からなくとも実際に見た時に飲むかどうかを決めればいいだろう。
考え事をしながらも、頂上を過ぎて山を下り、簡単に山を越える。
頂上から村の方角を見てみたが、村はまだ別の山を越えた先らしく確認出来なかった。それでも山を下りた先の光景は確認出来ていたが。
「こちらもこちらで何も無いですね」
「ええ。この辺りはこんな風景ばかりですよ」
森を出た時と大して変わらない殺風景な景色に、ヒヅキは小さく息を吐く。違いと言えば山が近く、森が無いぐらいか。別に何かを期待していた訳ではなかったが、大して変わらない景色に何だか進んだような気がしない。
それでもまずは山をひとつ越えたので、村を目指して次の山へと進む。村に着いたら魔族領の現状について何か分かるだろうかと考えるも、辺鄙な場所のようだし望みは薄そうだ。それでもまずは周辺について知る事から始めた方がいいだろう。既にこの辺りはヒヅキの知識外の場所なのだから。




