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テトラ6

 もしもを考えて攻撃する事を躊躇したヒヅキは、もう一度、今度ははっきりと女性へと声を掛けてみる事にした。

「貴方が何故ここに居るのですか?」

「………………」

 ヒヅキの問いにも、女性は微動だにしない。それはまるで精巧に造られた人形のようだ。いや、もしかしたら本当にそうなのかもしれない。

 幻影か、人形か。そんな事はどうでもいいが、このまま背を向ける事には不安を覚えるヒヅキは、返答がない事を確認すると、覚悟を決めて攻撃してみる事にした。

 そうしてヒヅキが、いざ攻撃とばかりに後ろに引いた足に力を入れると。

「ふふふ」

「ッ」

 女性が小さく笑った。

 それに反応したヒヅキは慌てて前に出していた足へと力を移動させて、女性へと跳び掛かる為に溜めた力を強引に抑制する。

「そう結論を急かずともよいではないですか」

 ヒヅキのそんな姿を見た女性は、悪戯でも成功させたかのようにくつくつと笑う。それに伴い、銀に近い奇麗な金髪が左右に揺れる。

 そんな姿に軽い苛立ちを覚えながらも、ヒヅキは警戒を怠らない。いくら喋ったとはいえ、本物かどうかは不明なのだから。……そもそもヒヅキは本物相手でも常に警戒をしていたので、あまり対応は変わっていないが。

「それで、先程の答えは頂けるので?」

 優しさの欠片も無い声音でヒヅキが問い掛ければ、女性は依然として肩を小刻みに上下させながらも、口を開く。

「私が何故ここに居るのか、でしたね」

「ええ」

「むしろそれは、私が訊きたいのですが?」

「そうですか。ですが、先に問うたのはこちらの方です」

 ヒヅキの物言いに女性は変わらず小さく笑いながらも、確かにと納得するように数度頷いた。

「では、私から答えましょう」

「………………」

「ここは私にとって神聖なる地ですからね。長い事訪れていなかったので、何事もなかったか確認に来ただけですよ」

「神聖な地?」

「ええ。それで、貴方は?」

「……それに私が答える義務は無いと思いますが」

「そうですね。私と貴方は別段親しい訳でもないですし、主従という訳でもない。私は貴方に恩はありますが、私は貴方に何もしてはいない。確かに義務はないでしょう。ですが、それで私がどう感じるかはまた別の話ですよ?」

「……それは脅迫ですか?」

「お好きなようにお取りください。私が恐ろしいのでしたら、そう取ればよろしいかと」

 にこりと慈愛に満ちている様に見える優しい笑みと、優しげな声音で受け答えする女性だが、その内容は軽い脅迫と挑発を含むものであった。もっとも、女性にヒヅキと敵対する意思はないので、単に必要以上に警戒して悩んでいるヒヅキをからかっているだけなのだが。

「………………」

 とはいえ、それは女性から見た場合に過ぎない。ヒヅキから見れば、自分よりも格上だと半ば確信しているような相手と駆け引きしているようなモノだ。それも話の内容的に、返答次第では即座に敵対しかねない緊張感も含まれているように感じている。

 ヒヅキは苦々しい思いを抱きつつ、諦めてここに来た経緯をざっくりと説明する事にした。

「私はただここに連れて来られただけですよ。連れてきた相手は何処かに行きましたが」

「そうでしたか」

 その返答に、女性は大きく頷く。どうやらそれで一応納得したらしい。

 しかし、それはヒヅキの考える納得とは違ったようで、女性は大きく頷いた後に気楽な調子でこう告げた。

「あの通路を通ってきたのですね」

「………………」

 女性の言葉にヒヅキは特に反応はしなかったが、内心では顔を顰めたい思いであった。

 しかし、先程までの女性との会話で、女性がここに何度も訪れているような口振りであった事を思えば、女性があの隠し通路の事を知っていても不思議ではないのだろう。

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