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残響116

 自分が自分ではない。そんなのは今更ではあるが、だからといって簡単に受け入れられるものではないだろう。

(そもそも、俺は何者だ?)

 だが、それ以前にヒヅキは自分という存在に疑問を抱いていた。どう考えてもヒヅキという存在はもう希薄になっているのだろう。こう考えているこの自分でさえ誰なのかもう分からないほど。

(記憶はかなり失った。感情もどんどん失っていっている。何かに侵食されているのがよく分かる。それに対してもう恐怖も湧かないことも)

 ヒヅキは何処か達観したように鼻から息を吐き出すと、少し考えていました。みたいな雰囲気を出しながら男に言葉を返す。

「なるほど。その方法についてはご存知ですか?」

「いえ。創造主の力で別次元に干渉出来るというぐらいしか」

「そうですか」

 男の申し訳なさそうな言葉に、ヒヅキは頷きを返す。

 この辺りは、おそらく創造主かその力であろうあの声の主に尋ねた方がいいだろう。それに、その時に確認したい事もあった。今までの事から考えるに、訊きたい事はそれほど聞けないだろうが、ひとつだけどうしても確認しておきたい事があったのだ。

 それにしてもまぁ、今回は収穫が結構あった。知りたい事も増えたが、それでも光球限定でも瞬間移動が使えるようになったのは大きい。

 今後使用するかどうかは別だが、それでも何かしらの意味はあるのだろう。今後別次元について調べなければならないだろうから、瞬間移動はそれを調べるのに役立つ。

「他に別次元についてご存知の事はありますか?」

「いえ。私にはこれ以上は」

「そうですか」

 男の言葉に頷きながら、まぁ十分かとヒヅキは考える。そして、もうここには用はないだろうとも。

「それでは、私は戻ります」

「はい。ああ、少しお待ちください」

 ヒヅキが一言告げて来た道を戻ろうとすると、男が声を掛けてそれを止める。

「何かありましたか?」

 振り返り問い掛けると、男は頷き背後の方を手のひらで示す。

「お帰りはこちらの方が宜しいのでは?」

「こちら?」

 男の言葉に、ヒヅキは訝しげな視線を向ける。男の背後の空間にはどこにも道は無い。無論扉も確認出来ない。というより、現在居る空間は行き止まりにしか見えなかった。

 しかし、男は問題ないとばかりに手で背後を示したまま、ヒヅキの方に顔を向けている。

 そんな男の様子に、もう1度ヒヅキは男の背後に目を凝らすようして確認してみるも、やはりそこには行き止まりしかない。

「どうされますか?」

 男の確認の言葉に、ヒヅキはどうしたものかと思案する。

 そもそも本当に道が在るのかも疑わしい。しかし、もしも本当に行きとは別に道が在るのだとしたら、確かにこのまま戻ってフォルトゥナ達と合流するよりはいいだろう。

 そう考え、確認するぐらいはしてみてもいいかと男に案内を頼む。それに男は恭しく礼をすると、ヒヅキに背を向けて歩き出した。

「それで、その道は何処に繋がっているのですか?」

「地上です。少々遠いところに在ります森の中に」

「森の中?」

「はい。道の終わりに森が在るのは分かるのですが、そこが現在何処の国が支配しているのかまでは分かりません」

「なるほど」

 今までの話から、どうやってか男は神の動向やそれに付随する情報については把握していた。つまりは世界的な大きな動きについては把握しているようだが、何処の国が何処を支配しているというような小さなモノについては把握していないという事だろう。

 それについては別に問題ないが、その終わりの森が安全なのかは少し気になった。まぁ、多少でしかないが。

 それよりもここで重要なのは、フォルトゥナ達が居た入り口とは別の場所に出られるという事だろう。これで一人で行動出来るようになるが、ヒヅキは何故かその一人旅も長くは続きそうもないなという困った予感を覚えていた。

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