ガーデン11
「旦那様、お食事のご用意が整いました」
そのあとはアイリスも交えて色々と雑談を交わしていると、ノックの音のあとに若いメイドがそう告げに来た。
「そうか、分かった」
シロッカスは扉越しにメイドにそう返事を寄越すと、ゆっくりと立ち上がり伸びをする。
「では、行こうか!」
シロッカスの言葉に頷くと、ヒヅキとアイリスも立ち上がる。
アイリスは先に扉に近づくと、扉を開けて二人を待つ。開いた扉の先では、呼びに来たメイドが頭を下げて横に控えていた。
「ありがとうアイリス。さぁ行こうか」
シロッカスが扉を開けて待っていたアイリスを労うと、メイドに先導されながら食堂に向かった。
食堂には白いレースが掛けられた、人が片面に六、七人座れそうな長机が置いてあり、その机に備えられている椅子は座り心地の良さそうな背もたれの高いものだった。
「……………」
ヒヅキはその簡素ながらも高価そうな品々に圧倒されると同時に、更には壁際に数名の使用人が控えていることにも驚いた。
「こちらへどうぞ」
シロッカスとアイリスが先に行くなか、別世界ぶりに気圧され入り口で立ち止まていたヒヅキに、使用人の一人がスッと近寄ってきてそう案内してくれる。
ヒヅキは戸惑いながらも、引かれた椅子に慣れない動きで腰掛ける。
「それでは頂こうか!」
そう言ってシロッカスが手を合わせると、アイリスも同じように手を合わせた。
ヒヅキはこれがこの家の食前の祈りなのだろうと思い、見よう見まねで手を合わせて、二人に倣って目を閉じた。
数秒のちに目を開けると、三人は食事を開始した。
「どうだい?お口に合うかな?」
二、三口食べた辺りでシロッカスがヒヅキに問い掛けてくる。
「ええ、とても美味しいです」
「それは良かった」
にこやかにそう返すヒヅキに、シロッカスもにこやかにそう返した。
「……………」
その後は黙々と食事を進めるも、使用人が控えた空間での格式高い食事というのは、庶民のヒヅキにとってはあまりにも居心地が悪かった。
それでも礼を失しない程度には教養があったヒヅキは何とかそれを乗りきるが、正直、失礼の無いように気を配ることに集中しすぎて、味なんて大して分からなかった。
「ありがとうございました」
手を合わせて食後の感謝を捧げ終える頃には、使用人がサッと食器を下げ終えていて、目の前に食器類は既になかった。
「どうだいヒヅキ君。せっかくだし今日は泊まっていかないかい?」
食事を終えた後の突然のシロッカスの提案に、ヒヅキは驚きつつも、さすがに悪いと丁寧に辞退する。
それでも是非にと勧めるシロッカスに圧されて、結局は泊まることになった。
(いいんだろうか……)
初対面のヒヅキにここまでしてくれるシロッカスに、終始ヒヅキは困惑しっぱなしであった。