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酒場3

「少しは落ち着け、このナルシストが!!」

 そんな言葉とともに降り下ろされた手刀が赤髪の男の脳天に直撃する。

「イテッ!!」

 手刀を受けた赤髪の男は、打たれた頭を片手で押さえながら抗議の眼差しで振り返る。

「そちらの人が迷惑してるだろ!相変わらずだな、リイドのそれは!」

 赤髪の男が振り返った先で、桃茶色の髪に大きくも鋭い目をして、それとは反対に愛嬌を感じさせる小振りな口をした、全体的に活発そうな印象の女性が、ムッとしたような表情と母親が子どもに言い聞かせるような口調で赤髪の男をしかりつけた。

「そ、そんなことはないよ~!?」

 赤髪の男は、桃茶色の髪の女性の指摘に自覚があるのか、目を逸らしながらそう答えた。

 そんな赤髪の男にもうひとつ、無言で冷ややかな視線を送る桃茶色の髪の女性とは別の女性の視線があった。その女性は、桃茶色の女性の隣から赤髪の男に視線を向けていた。女性というよりも少女と呼んだ方がしっくりくる外見ではあるが、少し前に聴こえてきたケンとの会話の中に、隣の桃茶色の髪の女性と年齢はさして変わらないという話をしていたので、少女なのは見た目だけのようではあるが。

 その女性は、秋の蒼穹(そうきゅう)を想わせる吸い込まれそうな鮮やかな青髪をした女性で、無表情で幾分分かりづらくはあったが、丸顔で顔の各部位の作りも配置も良く、端的に言えば美少女―――美女ではない―――であった。

 こちらは無表情でジッと見ているだけなので、何を考えているのかまでは初対面のヒヅキには分からなかったが。

 そんな二人の視線に晒された赤髪の男は、居心地悪そうに店内に視線をさ迷わせると、突然振り返ってヒヅキの方に振り向くと、両手でヒヅキの両肩を勢いよく掴んで、助けを求めるような目で問い掛けた。

「め、迷惑でしたか?」

 動揺しているのか、緊張した声音で少し言いづらそうに丁寧な言葉でそう問い掛けてきた赤髪の男に、ヒヅキは少し呆気にとられながらも、正直に首を振った。もちろん縦に。

「ま、マジで!?」

「まぁ、多少は」

 ヒヅキの返答に唖然とする赤髪の男に、ヒヅキは申し訳程度にそう付け足した。なんとなくではあるが、目の前のこの赤髪の男にはあまり気を遣わない方がいいような気がしたのだ。

 赤髪の男はショックを受けたように固まっていると、背後から赤髪の男の肩に桃茶色の髪の女性が「ほらな!」と手を置くと、赤髪の男の方にしたり顔を向ける。

「だから言ったろ、そのナルシストなところがウザイって。苦労自慢されても聞いてる方は困るだけだっての!」

 そう言って桃茶色の髪の女性は「すまなかったね」と、ヒヅキに空いていたもう片方の手で拝むようにして謝ると、赤髪の男を正面に向ける。

 それをヒヅキは苦笑して見届けると、自身も正面に顔を向けた。

「そ、そんなものかな?」

「ああ」

 隣から弱々しい声でそう発せられると、それに応える声が聴こえてくる。

「で、でも、ダンジョンだって苦労して探索するからお宝を見つけた時の感動もひとしおなんだしさ……」

「……いや、この世界にダンジョンがあんのかは分からないでしょ。今はこっちがリアルなんだし、ゲームと同じにしない方がいいと思うよ」

「それはそうだけどさ……」

「それに、同じやるなら出来るだけ無駄を無くして、時間を掛けずに、どれだけ楽が出来るかの工夫をするべきだと思うけど?」

「それも一理あるとは思うけどさ……」

 何か隔てる物がある訳ではない空間での隣なだけに、声の大きさに関わらずその二人の会話は自然とヒヅキの耳に入ってくる。

(冒険者は異世界からの訪問者ね)

 昔、ヒヅキが幼い頃に村の長老が話してくれた事が不意に頭をよぎり、ヒヅキはズキリと胸に鋭い痛みを覚える。それは、今は亡き生まれ育った村の事を思い出したからだろう。

(……冒険者、か)

 それでもせっかくの機会だからと、ヒヅキは懐かしいその当時のことを思い出していた。幼い頃に長老に聞かされた話を。

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