残響110
ヒヅキが自分の名を告げると、男は拝命するかの如く恭しく首を垂れる。
それを見て、ヒヅキは大袈裟なと思うも、やっている本人は大真面目な雰囲気なので口には出さない。それに、もしかしたらそれだけ創造主とやらが目の前の男にとっては重要な存在だということなのだろう。
男は頭を上げると、申し訳なさそうな恐縮しているような表情を浮かべる。それにヒヅキが何だと訝しげに見詰めると、男は重々しく口を開いた。
「御名前を御教え願っておきながら非常に申し訳ないのですが、実は私には名乗るべき名が無いのです」
重大な秘密を明かすような雰囲気で男が放った言葉に、ヒヅキは鼻白む。ヒヅキにとってはそんなことはどうだってよかった。仮に男に名が在ったとしても、ヒヅキはわざわざそれを訊こうとも思っていない。何故なら、ヒヅキにとって眼前の男の名など必要ないから。
そんなヒヅキの気持ちには気づいていないようで、男は終始申し訳なさそうな雰囲気を纏っている。おかげで当初感じていた得体の知れなさとか、泰然とした雰囲気なんかが全て吹き飛んでしまった。
そのせいという訳ではないだろうが、ヒヅキは何だか急に面倒になってくる。知りたい事はあるのだが、そんな事よりもさっさとここから出たかった。
しかし、今はそれよりも適正についての結果を聞く方が先だと思い直し、ヒヅキはひとつ息を吐いて気持ちを切り替える。しかし思ったよりも呆れていたのか、思いの外強く息を吐き出しすぎて、それが男の耳に届いてしまったよう。そのせいで男がびくっとしたのをヒヅキは視界に捉える。
その様子に、まるで悪戯をして怒られている子どものようだと思いながら、創造主という存在が想像以上に大きいというよりも絶対的なのだなと冷静に分析していく。
そんな存在の力をヒヅキがどれほど受け継いでいるのかは知らないが、神を殺すのに役立ってくれればいいなと、男の様子につい期待してしまう。
(ま、光の剣は通用しなかったが)
しかしそこで、男にあっさりと止められた光の剣を思い出して、ヒヅキは苦笑を浮かべてしまう。咄嗟の事で全力ではなかったとはいえ、それでも結構力を籠めて顕現させた光の剣だったのだ、であればこそ、結果があれでは期待は出来ないだろう。
現実を思い出して、結局希望は無いのかと思いながら、適性の結果について中断したままで続きを話す様子の無い男にヒヅキは続きを促す。
「それで、適性の結果はどうだったんですか?」
ヒヅキに問われて、男はそうだったといった表情を一瞬浮かべてから話を始める。
「ヒヅキ様の適性で御座いますが、どうやら事前に仰っていたように、光に強い適性があるようです。しかし、その他にも様々な属性にも適性があるようですので、結果としましては、全属性に適性有り。特に光に強い適性を持つ。といったところでしょう」
「……そうですか」
「何か御懸念でも?」
口元に手を当てて男の言葉を吟味するように頷いたヒヅキに、男は不思議そうに問い掛ける。男にしてみれば、全属性に適性が有るのだから悩む必要を感じなかったのかもしれない。しかしヒヅキにしてみれば、光以外の魔法は発動こそすれ大した威力ではないので、適性が有ると言われても、では何故威力が出ないのかと困惑しかない。
しかしそこで、もしかしたら適性はあっても光以外は適性の値が低いのかもしれないと思い至り、それについて男に尋ねてみる。
「いえ……適性の結果ですが、光属性の適性が強いと仰いましたが、もしかして他の属性は適性はあっても基準以下ということでしょうか?」
適正に基準というモノがあるのかどうかは知らないが、これで訊きたい事は伝わるだろうと思いヒヅキがそう尋ねると、男は何故そんな事を訊くのかといった感じの顔を浮かべると、首を小さく横に振りながら口を開いた。
 




