残響109
結局なんだったのか。色々と変化こそしていたが、あの変化が何だったのかヒヅキには解らない。なので、そう思いながら光球から手を離すと、意味を知っているだろう相手へと視線を向ける。
視線を向けた先、そこで未だに光球を差し出した格好のまま固まっている男は、光球に目を向けたまま険しい表情を浮かべていた。
その表情を見て、ヒヅキは先程の強い光の中でも男はそうして光球に目を向けていたのだろうかと、どうでもいい事を思う。ついでに、その険しい表情は思案している様に思えた。余程結果がよくなかったのだろう。
ただ、そのよくないがどういった意味かで判断に迷う。とりあえずヒヅキは何があっても対処できるように男から距離を取っておく事にした。
ヒヅキが男から距離を取っても、男は光球をヒヅキの方に差し出した格好のまま動かない。もしかして死んでしまったのだろうかと勘繰りたくなるが、先程ヒヅキがやった事は光球に手を置いただけだ。それも男からの要請なのだから、それが攻撃になるとは思えない。
だが、いつまで経っても男は動かない。余程深刻な結果だったのだろうかと思いつつも、結果を聞かねばどうにも判断のしようがないヒヅキは、静かに男が動き出すのを待つ。
それから更に時が経ち、やはり突然寿命でも迎えて死んでしまったのではないかとヒヅキが考え出した段階で、やっと男が動き出した。
男は差し出すような形で突き出していた光球を消滅させると、手をだらりと身体の横に垂らして、静かに深く息を吐き出す。
緊張感のあるその様子を見ながら、ヒヅキは男に呼吸が必要なのだろうかと、今更なうえにどうでもいい事を疑問に思う。
程なくして顔を上げた男は、ヒヅキに向かい深々と頭を下げて謝罪する。
「調べておきながら結果をお伝えもせずに、ご無礼のほど誠に申し訳ありません」
(おや?)
そんな男の様子を眺めながら、ヒヅキは内心で首を捻った。
(少し前よりも敬意が籠っている?)
男は最初からヒヅキに対して敬う様な言動を見せてはいたが、しかしそれは距離を取った印象しかなく、形式をなぞっただけで中身が感じられなかった。
しかし、今はどうだ。やった事といえば適性を調べただけだというのに、その言動からは敬意を感じる。無論、溢れるほどという訳ではないが、それでも先程まで感じられなかった敬意を、言葉や所作の端々に感じることが出来た。
もしかしたら偽物と疑っていたのかもしれない。男の態度の変化から、ヒヅキはその可能性を考える。
(あの門を通ったのだから偽物という訳ではないのだろうが、それでも実際に調べてみて、創造主の力の持ち主だと確信出来たといったところか?)
そんな予想をしてみるも、だからといってヒヅキにはどうだっていい事だろう。創造主の力というモノの詳細については知りたいが、解らないならそれでも問題はない。それに敬意など最初から求めていないし、今でも不要だと思っている。だが、有ると無いとでは有った方がいいとは考える。その方が情報の信憑性が増すだろうから。
さて、そういう訳でどういう心境の変化か、ヒヅキに対して敬意を持った男に、ヒヅキはそんな事はどうだっていいからとばかりに適性について調べた結果を問い掛ける。
「適正について調べた結果は出ましたか?」
ヒヅキの問いに男は大きく、しかし重々しく首を縦に振った。
「はい。貴方様の……大変申し訳ありません。御伺いしておりませんでしたが、貴方様の御名前を御伺いしてもよろしいでしょうか?」
話し出して直ぐにハッとしたような表情を見せた男が、恐縮した様子でヒヅキの名を問う。
そんな男の様子に、ああ、多少は興味を抱いたのかと冷めた視線を向けながら、ヒヅキは何処か面倒くさそうに男に己が名を告げた。




