残響108
もしもヒヅキのその予想が当たっていたとして、ヒヅキはそれを考えてみるも、何も問題はないと判断して気にしない事にする。
そのうえで、適性属性について話す、もしくは調べてもらうべきかと考える。これからの事を思えば、知っていて損は無いし、何かしら助言を得られるかもしれない。
だがその代り、目の前の男にはヒヅキの適性属性とやらが知られるという事になる。現在敵対はしていないが、将来的に敵対した場合は厄介な事になるだろう。
(……そんな予定は無いし、おそらくこれからも無い。少なくとも、俺の中に創造主の力がある限りは大丈夫だろう。それこそ、その創造主当人が敵として現れない限りは心配ないだろうが、問題の創造主は死んだらしいから大丈夫だろう)
そう考えると、ヒヅキは男を敵ではないし、敵にはなり難いと判断する。仮に敵になってしまったら、その時はその時だ。ヒヅキは過去を少し視ることは出来ても、未来まで視ることは出来ない。であれば、現在の手持ちの情報から判断するしかないだろう。
その手持ちの情報を基に考えて導き出された答えが敵にはなり難いである以上、それを念頭に考えるしかない。なので、答えは直ぐに出る。
「……私の適性はおそらく光ですね。それでもしっかりと調べた訳ではないので、調べていただけるのであれば助かります」
「畏まりました」
光の剣を消してから発せられたヒヅキの言葉に、男は恭しく礼をすると右手を前に持ってきて手のひらを横に向けた。
しばらくすると、男が持ち上げた右手のひらに白光する小さな球体が現出する。
現出したその光球は、最初小指の先ほどの大きさだったのだが、それが次第に膨れていき、今では男の手のひらよりも一回り程大きくなっている。しかし、それでもまだ膨張が収まる様子は無い。
それをどうするつもりなのかとヒヅキが眺めていると、光球の膨張が止まる。結局直径30センチメートルを超えたぐらいにまで光球は育ったが、それを何に使うかまでは分からない。少なくとも攻撃目的ではないだろう。
ヒヅキが疑問に思いながらそれを眺めていると、男は手のひらの上で淡く輝く光球をヒヅキの方に差し出した。
「これに何か魔法を。もしくは触れていただければ貴方の適性属性が判ります」
「………………なるほど」
警戒しつつも、ヒヅキは男に近づく。離れた場所から魔法を放ってもよかったが、ヒヅキが扱える魔法の中で遠距離から攻撃出来るのは、破壊力の高い魔砲ぐらいしかないので、諦めて近づくしかない。
男はヒヅキが近づこうとも動かずにただ手のひらの光球を差し出すばかり。
敵意無しとでも主張するかのようだが、実際無いのだろう。ヒヅキは差し出されている光球の前まで来ると、一瞬迷った後に光球に触れる。そうすると、淡い白光を放っていた光球の光が消えてしまう。
しかし直ぐに明かりが灯る。その色は薄い青。かと思えば薄い赤になり、そのまま薄い緑、薄い黄、薄い茶色と、どんどん色が変化していく。
他にも青白くなったと思えば金色に光ったりと、1秒とて同じ色にはならない。そんな不思議な光景が数秒続いた後、今一度ふっと光が消えた。だがそれもやはり長くは続かず、直ぐに元々の光球に戻った。
よく分からないが最初に戻ったのでこれで終わりかと思い、ヒヅキが光球から手を離そうとすると、最後に光球が一際眩しく光を放つ。
まるで今から爆発でもしそうなほどの光に、ヒヅキは目を焼かれないように瞑りながら背ける。この辺りは魔砲で手慣れたものだ。ただいきなりだったので驚きはしたが。
その眩い光も、他の色と同じく一秒と満たずに収まる。それを察してヒヅキが目を戻すと、そこには最初と変わらぬ光球がそこにあるだけだった。




