ガーデン10
ヒヅキがシロッカスの申し出を受けると、早速シロッカスは使用人を呼んでもう一人分の夕食を追加するように告げた。
「さて、夕食が出来るまでにはまだ時間があるな。それではそれまで何か話をしようではないか!」
そう言うと、シロッカスは自分の言葉にうむうむと頷く。
「そうだな……ヒヅキ君はガーデンにはいつ頃来たんだね?」
「昨日ガーデンに入ったばかりです」
「昨日か。なら私の事は知らないかな?」
「申し訳ありませんが、寡聞にして存じ上げません」
「ハハッ。そう畏まらなくてもいいよ。今は私的な時間だ、礼儀は必要ないさ」
「は、はぁ」
「それに私自身、この狭い界隈で多少名が知れ渡っているだけの男でしかないからね、知らなくてもしょうがないさ」
シロッカスはおどけるように笑うと、軽く肩をすくめた。
「それでは、食事の支度が整うまで軽く王都と王都近郊の状況、ついでに私の事も話しておこう。これは仕事でも多少知っている必要があるからね」
そこでコホンと一度咳をすると、シロッカスは言葉を続ける。
「まずは、知っているとは思うが、この王都は王城であるガーデナ城を中心に発展している街だ。そして、そのガーデナ城にはこの国の王であるモル・カーディニア王とその一族が暮らしている。ガーデンは最もカーディニア王国で人口の多い都市で、兵士の数も多い。冒険者の数はソヴァルシオンに水をあけられてはいるが、それでも結構な数がこの都市を拠点にしている。次いで、現在の王都を取り巻く状況についてだが」
シロッカスは近くに用意されていた水をグラスに少し注ぐと、唇を濡らす程度の量をグラスから飲む。
そして口を湿らすと、シロッカスは話の続きをはじめた。
「現在王都は、というよりカーディニア王国はスキアの襲撃を受けている最中で、ホーンとベール方面から攻めてきたスキアに対して、国境を守っていた砦は既に全てが陥落しており、その後も連敗が続き、現在の最前線は王都から数百キロしか離れていない場所になっている。とはいえ、王都との間にはまだ幾つもの砦があるし、距離だってまだある。だが、おかげで王都内は騒然としていてね、しかも最前線は未だにじりじりと下がってきているときた。私がヒヅキ君に依頼した仕事は、その最前線への武器運搬の際の護衛なのだ。実はこれでも私は武器商人でもあるのだよ」
何故かフフンとでも言いだしそうなドヤ顔のシロッカスに、ヒヅキが最初に抱いた厳めしい人だという印象は、音を立てて崩れていった。