残響97
その結果にフォルトゥナは一瞬驚くも、直ぐに訝しげな目で壁を凝視する。
そんなフォルトゥナの後ろでは、状況が把握できていないヒヅキがどういう事かとフォルトゥナと壁に目を向ける。フォルトゥナが壁に向かって何かしらの魔法を放ったのは理解出来たのだが、それが何の魔法かまでは解らなかった。しかし、結果はフォルトゥナが予想していたものと違ったのだけは理解出来た。
壁を眺めながら何かを調べているフォルトゥナを横目に、ヒヅキも壁に目を向ける。
先程までフォルトゥナが壁に魔法で攻撃していたので、少し削れて感知を妨害している範囲がはっきりと判るようになっているが、その部分はほとんど同じぐらいの深さに削れているので、その部分に何かしらの防護魔法でも掛かっているのかもしれない。
その視覚的に表れた門とでも言うべき部分に目を向けながら、ヒヅキはどうするかと考える。
フォルトゥナが先程何の魔法を行使したのかは解らないが、その前の氷魔法での攻撃は中々に強烈だった。それを受けてもビクともしていないというのは、それだけあの壁には強力な護りが施されているという事なのだろう。
(この壁の先に何があるのかは分からないが、そもそもこの壁は壊してもいいのなのだろうか?)
仮に壁を破壊出来たとして、それによって別の何かが起きるという可能性は無くはない。というか、これほどまでに強固な魔法が掛けられているのだ、それを破壊してしまうと、それを起点として何かしらの魔法なりなんなりが起動してしまう可能性は極めて高いように思われる。
であれば、このまま放置していてもいいのではないだろうか? とヒヅキは考える。この地の様子を見るに、今まで何も起きていなかったようだし、放置している分には何も起きないのだろう。
(それが今後も続くという保証は無いが、それでもここであの門を無理矢理こじ開けてしまうよりはずっと安全だろう)
そうヒヅキは結論を出す。安全性を考慮すれば、それがもっとも正しい答えなのは間違いないだろう。しかし、この壁の先に何があるのか気になりはするのもまた事実。もしかしたら現状を打破するような何かかもしれないし、逆に現状をより混沌とさせる何かかもしれない。もしくは、期待させるだけさせといて、ただ外の護りが堅いだけで中身は大したことないという可能性もあった。
何にせよ、それを調べるには門を開けねばならない。好奇心に駆られて門を破壊してしまうか、それともここは慎重に行動して手を出さないか。実際に門を破壊できるかどうかはさておき、今はどちらにするかを決めなければいけなかった。正攻法で開ける方法など分からない訳であるし。もっとも、既にフォルトゥナは門を壊して中に入る気満々のようだが。
とはいえ、門を破壊する事を選んだとしても、ヒヅキに出来ることは少ない。フォルトゥナの魔法でも大して効果がなかった時点で通常の方法など通用しないだろうから、ヒヅキに残された方法は2つ。
1つは光の剣で門の切断を試みる事。もう1つは魔砲で門の爆破を試みる方法。
前者で済めば安全だが、後者は少々危険だ。威力を抑えてもそこそこの範囲が巻き込まれるし、なによりそんな威力を抑えた魔砲で門を破壊出来るとは思えない。
(もしも試すとしたら光の剣だけだな)
門の護りがどれだけ強固かは分からないが、それでもフォルトゥナの魔法で大して傷もつかないような門を破壊するだけの威力の魔砲ともなると、それこそこの地下空間を巻き込んだ規模で放つ事になるだろう。ガーデンでの大穴を思えば、あれぐらいの威力でも下の階層も一緒に幾つか吹き飛びそうだ。
その場合、自分の逃げ場を心配しないとなとヒヅキは内心で苦笑しつつ、仮に門を破壊するにしても魔砲を使うのは控えるようにしようと心に誓う。少なくとも最終手段だろう。
そう考えて、どちらを選ぼうかと思案する。光の剣で門の破壊を試みるか、諦めてこの場を立ち去るか。成功するかしないかはその後に考えればいい事だ。
 




