ガーデン9
「ヒヅキさん、こちらは私の父のシロッカスです。商人をしてますのよ」
シロッカスの礼が終わった辺りで、アイリスが紹介の続きを行う。
「そうなんですか!」
ヒヅキは大きくゆっくり頷きながら考える。住んでいる場所を考えれば単なる商人ではなく、豪商というやつなのだろうと。
「先ほどアイリスさんに紹介して頂きましたが、ヒヅキと申します」
ヒヅキはシロッカスに頭を下げる。
「私はアイリスの父親のシロッカスです。王都を拠点に様々なものを商っておりますので、何か御入り用でしたら何なりとお申し付けください」
柔和な笑みを浮かべてシロッカスもヒヅキに頭を下げる。
そうして一通り紹介と挨拶を済ませると、シロッカスが再度ヒヅキに問い掛ける。
「本当に何かお困り事等は御座いませんで?」
それにヒヅキは少し考える素振りを見せてから頷きを返した。
「これといって直ぐに思いつくようなモノはありませんね。強いて言うならば……何か短期間の仕事を探しているぐらいですね」
「仕事、ですか?」
「はい。まだ余裕はあるのですが、余裕があるうちに旅の資金を補充しておきたいと思いまして」
「ヒヅキさんは旅の途中なので?」
「はい。あてのない独り旅ですけれど」
「そうですか……」
シロッカスは顎に手を沿えると、天井を眺めながら黙考する。
「それでしたら、私めの仕事を手伝ってはくださいませんか?」
考えが纏まったのか、ヒヅキの方を向いたシロッカスはそう提案する。
「仕事の内容を聞いてもよろしいでしょうか?」
「勿論ですとも。仕事というのは、護衛をお願いしたいのですよ」
「シロッカスさんの護衛ですか?」
「いえ、それも間違ってはいないのですが、護衛対象は武器です。近い内に前線の砦に武器の補充をするので、その護衛を頼みたいのです。この御時世に独り旅をなさっているというので、腕が立つのではと見込んでの依頼なんですが……」
そう言うと、シロッカスは窺うような視線をヒヅキに向ける。
「そういうことでしたら、よろこんでお受けします」
「そうですか!それは良かった。それでは、報酬についてのお話もしましょう」
ホッとした表情を浮かべたシロッカスは、早速と話を進めようとするが、そこで娘のアイリスが退屈するのではないかと思い、考え直す。
「報酬はこちらで一度試算してから、後ほど仕事の内容の子細とともにお伝えするというかたちでよろしいでしょうか?報酬についてですが、現段階では冒険者ギルドに依頼する時を目安に考えておりますので」
別に急ぎという訳ではないヒヅキは、シロッカスのその頼みに「分かりました」と、頷きを返した。
「ありがとうございます」
それにシロッカスは礼を述べて頭を下げる。
「そうだ!もう良い時間ですので、是非とも当家で夕食を召し上がっていってください」
ヒヅキは僅かに逡巡するも、まだ拠点となる宿も決まってない状況では当然夕食の当てもないために、有り難くシロッカスのその申し出を受けることにしたのだった。