残響92
ヒヅキ達は階段を上り終えて上層に到着する。
近くに居るドワーフの一団とは距離を取りつつ、スキアの動向にも気を配る。他にはドワーフ達は居ないかと探ってみると、直ぐにドワーフ達が固まっている場所を2ヵ所発見した。
そのどれも離れてはいるが、スキアの射程圏内。
『フォルトゥナ』
『はい』
『この階層のドワーフ達は3ヵ所だけ?』
『はい。そうです』
『そうか……気のせいかも知れないけれど、その3ヵ所のドワーフ達はスキアに気づかれていない?』
『はい。場所を把握されております』
『だよね。でも、それじゃあなんで襲われてないの?』
ヒヅキは不思議そうにフォルトゥナに問い掛ける。
ドワーフ達が居るのは、隠しているような位置に在る狭い扉の奥に広がる空間だが、地下街を縦横無尽に駆けている事から、スキアならばその程度の扉は問題なく通れるはずだった。
『魔法道具の影響かと』
それに対するフォルトゥナの答えは簡潔で、それでいて一応の納得は出来た。なので、ヒヅキはそのままその魔法道具に興味がいく。
『どんな魔法道具?』
『1つは障壁を張る魔法道具で、魔力の気配を薄くさせる効果もあるようです。その障壁が接触した相手の魔力を奪う魔法道具のようで、スキアがそれを嫌っているようです。しかし、突破出来ないという訳ではないので、突撃する時期を測っているのかもしれません。そして2つ目は、単純に堅い障壁を発生させる魔法道具のようで、その内側に避難したドワーフ全員が入っているようです。その障壁はスキアでも破壊には手間取るでしょう。こちらは単純に面倒なので後回しにしている可能性が高いかと。そして最後は、近づくと範囲内の相手を攻撃する魔法道具で、スキアでもその攻撃が直撃すれば消滅するでしょう。ただ、こちらは待機状態でも消耗が激しいようで、時間を置けば勝手に魔法道具が寿命を迎えると思われます。そして、どうやらスキアもそれには気づいているようで、魔法道具が寿命を迎えるのを待っているようです』
『ふむ。色々と魔法道具を持っているものだな』
ドワーフも魔法道具の作製をしている。とはいえ、エルフ製よりも劣る魔法道具の作製技術なのだが、それでもそれなりに時間が経過しているので、何かしらの独自の技術があってもおかしくはない。そうヒヅキは思ったのだが。
『全て遺跡から持ってきたもののようです。丁度運んでいた魔法道具の中に在った物を勝手に使用しているようです』
『なるほど。よく魔法道具の性能を知っていたな。流石は研究機関といったところか』
『はい。しかし、全ての魔法道具について理解している訳ではないようで、運んでいる魔法道具でさえどういった魔法道具か解っていない物も混ざっているようです』
『そうか。もしかしたら、水晶の欠片についても何か研究していたかもしれないな』
一旦戻って研究機関の建物を調べるべきかとも考えたヒヅキだが、その辺りの資料も持ち出しているだろう。
『材質など色々調べようとしたようですが、傷ひとつつけられずに放置されていたようです』
諦めたヒヅキに、フォルトゥナがそう答える。
『資料でも在ったの?』
『水晶の欠片を調べた際に、保管されていた水晶の欠片近くに資料がまとめられておりましたので、それを確認しました』
『なるほど。流石だね』
『勿体なきお言葉です』
しっかりとそこまで目を通していることにヒヅキが感心すると、フォルトゥナは嬉しそうに頭を下げた。
『しかし、そうか。だとすると、回収した時点でもうここの研究機関には用は無いのか』
水晶の欠片は回収済みだし、その研究は傷をつけられないというだけしか判っていない。そんな場所であれば、もう用は無かった。他の魔法道具はドワーフ達が持ち出しているので、欲しいのであればそちらを襲えばいいだけ。
ヒヅキとしては、街に在るというフォルトゥナが見つけた物さえ調べられればそれでいいので、この階層にも用は無かった。




