残響91
片付けを済ませたヒヅキ達は、地下街の上層に戻る為に移動を開始する。
スキアやドワーフと遭遇しないように気をつけながら、行きとは違って階段を使って上層を目指す。
そんな中、フォルトゥナはどうしたものかと思案する。
現在のフォルトゥナは、魔力を視る事が出来るエルフの眼の力が著しく低下している。その影響でかなりぼんやりとしか対象の魔力を視る事が出来ない。
フォルトゥナは元来その能力が他のエルフよりも高かったので、そのままであれば魔法道具を探すのなど容易いのだが、今ではそれも難しい。
この魔力を視る眼だが、実は眼自体に秘密がある訳ではなく、特定の種族のみが生成出来る魔力に秘密がある。なので、その魔力を併用すれば、感知魔法でもある程度は応用が利く。
フォルトゥナが魔力を視る眼の力を失ったのは、ヒヅキが女性から受け継がされた武器でこの魔力を生成していた器官を傷つけてしまったから。
この器官を回復させることが出来れば、フォルトゥナは再度本来の力で魔力を視る事が出来るようになるのだが、それをするのはかなり困難。少なくとも、自然治癒では傷ついた器官は治らない。
そんな事など知らないフォルトゥナは、どうにかして眼を治せないものかと思案する。それはフォルトゥナにとっては、ヒヅキの役に立てるかどうかに響く大事なこと。
しかし、いくら考えても妙案は浮かばない。しょうがないので感知魔法の精度を上げる努力をするしかないと判断して努力をしていた。
そのおかげもあり、範囲はそこまで広くはないものの、かなりの精度で様々なモノを捉える事に成功する。それからもさらに磨きをかけた結果、フォルトゥナはエルフの眼には劣るものの、それに近い感覚を感知魔法で再現してみせた。
それはフォルトゥナの異質性を強く表しているようではあるが、フォルトゥナ本人としてはそれでも満足出来ていない。故に、現在どうすればエルフの眼を再現できるかに腐心していた。それは偏にヒヅキが魔法道具を求めているから。
フォルトゥナはエルフの眼の正体を知らない。しかし、偶然とは中々に奇妙なモノで、フォルトゥナは別の道ではあるが、エルフの眼と同じ事をしようとしていた。
地下街の上層と下層を繋ぐ階段はひとつではない。ヒヅキ達が使っている階段は複数在る内のひとつで、研究機関の建物が在る空間へと延びている階段なので、利用者の数が極端に少ない。
階段とその周辺の様子を探りながら階段を上るが、範囲が狭いのでフォルトゥナの感知魔法に頼らずとも、ヒヅキの感知魔法で十分。それによれば、階段にはヒヅキとフォルトゥナ以外には誰も利用している者は居ない。しかし、階段から離れた場所にはドワーフの一団が隠れているのを発見する。
ヒヅキはフォルトゥナに確認を取り、間違いなくそこにドワーフの一団が居るのを確かめた。その際、フォルトゥナはそのドワーフの一団が魔法道具を所持しているのを報告した。
『ふむ。この付近に隠れているドワーフの一団で、魔法道具を所持しているとなると、研究機関の建物から荷物を持ち出した者達かな?』
『半分程かそのようです。ですが、残りの半分は更に上層に在る街から逃げてきて、その道中でスキアを見つけて慌てて隠れた者達かと』
『その者達は魔法道具を持っていないの?』
『はい。食料を幾ばくか持参した程度の様です』
『まぁ、それで十分といえば十分なのだろうが……』
ただ避難するだけであれば、それで問題はないだろう。しかし、相手はスキアだ。集団の数が増えることは必ずしも歓迎されるという訳ではない。
『スキアの感知の鋭さを思えば、いい餌場でしかないでしょう』
フォルトゥナの言葉に、ヒヅキは頷き同意する。
『そうだな。結局全滅するにしても、見つかりやすくなっただけだからな』
いくら隠れても直接見て探している訳ではないので、数が増えればその分発見される可能性が高まる。というか、おそらくヒヅキ達がもうすぐ到達しようとしている上の階を徘徊しているスキアにはバレているだろう。その上で放置されているだけ。理由の方は不明だが、あまり美味しそうではないのかもしれない。




