残響86
水晶の欠片が入った箱の許まで移動すると、すぐさま回収して戻る。近くで荷物の整理していたドワーフは、荷物に集中していたので気づかなかったようだ。
帰りも搬入口から出て倉庫を出ると、また建物の裏手に戻る。
建物の裏手に到着すると、早速回収した荷物の確認を行う。
(……水晶の欠片が1つずつ入った箱が2つ。他の水晶の欠片はこの箱に入って安置されていたから、これもそれをそのまま持ってきて保管していたといったところだろう。出土品の中には、迂闊に触れると惨事になるモノも在るらしいからな)
小箱を取り出しながら、箱の中を確認する。小箱が収められていた箱には、もう1つ小箱が入りそうな空きがあったが、そこには一体の人形が入っていた。
『ふむ、人形?』
それは藁を蔦か何かで束ねて人型にしたようなモノで、不気味なだけで可愛らしさは微塵もない。
人形の大きさは、頭部から足の先までが20センチメートルから25センチメートルぐらい。広げている両手の指先から反対側の指先までも同じぐらいかやや短い程度。大体手の平より一回りぐらい大きいその人形だが、古めかしく独特の雰囲気を放っている。かといって簡単に壊せそうな感じはしないので、単純な造りながらもしっかりと作られているようだ。
ヒヅキはそれを慎重な手つきで観察してみるも、独特な雰囲気を放っているだけで危険な感じはしない。だが、何かしらの魔法道具なのか、魔法の気配はしている。
ヒヅキの知る中で人形で魔法度具といえば身代わり人形だが、それにしては大きいので違うだろう。感じる気配もまた別物だ。
ヒヅキが真剣な眼差しで人形を観察していると、拗ねたように口を僅かに尖らせたフォルトゥナがヒヅキに声を掛ける。
『それはおそらく呪いの人形ではないかと』
『呪いの人形?』
フォルトゥナの顔に目を向けたヒヅキは首を傾げる。呪いとは、もの凄くざっくり簡単に言えば、魔法による機能阻害だ。重篤な病気を条件に合致した相手に人為的に起こすようなもので、目的は相手を苦しめる事である場合が多い。
1度掛かってしまうと厄介ではあるが、条件に合致しない限りは安全ではある。それに条件が厳しいほどに効果が高いので、そうそう危険な事にはならない。
『はい。詳しくは分かりませんが、何かしらの条件で起動するようになっているのかと。それも結構強い魔法のように感じられます』
ぼんやりとしか魔力を視る事が出来なくなった眼だが、それでも全く視えない訳ではない。人形に眼を向けながら、フォルトゥナはヒヅキにそう告げた。
『なるほどね。まぁ、余計な事はしないでおくか』
『それがよろしいかと』
箱の中に人形をしまったヒヅキは、小箱の中から水晶の欠片取り出して1つにまとめておく。
ついでに空になった小箱も背嚢に入れると、もうここにも用は無くなった。
(遺跡の場所を調べてもいいが、これだけ色々と遺跡から持ってきているのであれば、把握している遺跡は全て調べている事だろう。この周辺にそんなに遺跡が多いとも思えないし)
ガーデン周辺はかなり遺跡が多かったが、あれは例外。普通は在っても1つから3つぐらいらしい。
それに遺跡を調べたからといって、必ず何かが見つかるという訳でもなく、むしろ学術的な発見以外は何も成果がない事の方が多い。なので、遺跡から色々と見つける事が出来たヒヅキは、やはりついていたという事なのだろう。普通ならば。
(まぁ、そんな訳はないのだが)
あれだけの品だ、確実に何かしらの意思が働いているだろう事は想像に難くはない。しかしそれが何かは分からない。最初は神の仕業かと考えていたヒヅキだが、いくら考えても利点が大してないのだ。唯一考えられるのは自分が楽しむためだが、それにしては自分で施した剣の封印を無理矢理解こうとしたりと、少々行動が不可解であった。
なので、ヒヅキは解らないと考えを横に措く。ヒヅキには利点があったのだからどうでもよくなったとも言える。仮にそれで混沌としたとしても、今更である。
 




