残響75
地下への入り口は塞いだりせずにそのままにして、ヒヅキ達はその場を離れる。
(スキアは地下の様子に興味津々だから、いくら道を造ってもこちらまでは来ないかもしれないな。周辺の様子を探っているのかも疑わしいし)
ヒヅキ達の方に興味を示さない様子からその可能性も在るが、それとも地下への道以外には興味がないのかもしれない。もしもそうであれば、フォルトゥナが掘った地下へと続く道にも直に気づく事だろう。
ヒヅキとフォルトゥナの二人が通っただけなので道の広さはそこまでないが、それでもスキアが通る分には問題ない。スキアも全てが大きいという訳でもないのだから。
地下街の方向へと歩みを進めていたヒヅキは、そこでふと今更なことに気がつく。
『そういえば、あの女性は?』
現在ヒヅキに付いてきているのは、後ろに居るフォルトゥナと、何処か近くで姿を隠しているウィンディーネのみ。ホーンの洞穴から行動を共にしている女性は何処にも居なかった。
女性は一緒に付いてきているとはいっても、元々ふらりと何処かへ行っては帰ってくるを繰り返していたので、ヒヅキは女性の動向について気にしていなかった。
もっとも、そもそもヒヅキは女性の動向に興味が無いというのもあるが。それに加えて、女性はヒヅキの感知魔法では捕捉出来ないというのも、ヒヅキが女性を気にしない理由のひとつ。
なので、後方の確認の為に僅かに視線を後ろへと向けた時に、そういえばとそれに気づいただけだ。
ウィンディーネと違って女性はヒヅキに対して害意を持っていないようだったのも大きいのだろう。
『いつからだったかは分かりませんが、ドワーフの国に来た時には既に居ませんでした』
『そんな前からか。相変わらず察知出来ないな』
ヒヅキは少し参ったように頬をかく。女性が勝手に付いてきてまだそれほど経っている訳ではないが、それでもその間にヒヅキは幾度も女性の動向を探ろうと試みた。しかし、未だに1度として上手くいった試しはない。普通に後を付いてきている分には感知も出来るのだが。
(やはり別次元というやつは厄介だな。次元の穴はまだ拡張出来ていないし、女性の話通りならば別次元は無数にある。それでいながら同じ次元同士でなければ干渉は不可能。であれば、何処かひとつでも別次元に逃げ込まれては追えなくなってしまうという事だろう。それは非常に厄介というか、どう対処すればいいんだ? 何となくだが、あの女性はその方法を知っていそうだが……どうやれば?)
歩きながら、ヒヅキはふむと難しい顔をする。このままでは女性の感知が難しいというのもあるが、それ以外にもヒヅキは何者かに見られている様な気がしているので、その対策を模索していた。しかしそれも、現状ではたとえ次元の穴が拡張できたとしても難しいだろう。
かといって他に方法も思いつかず、とりあえずは開けた次元の穴について調べていくしかない。もしかしたらそこから何かしらの発見があるかもしれないと、一縷の望みを賭けて。
(女性本人が教えてくれたら早いのだが、秘密が多いうえに答えたくない事は答えないからな。まぁ、適当な事を教えられるよりはマシなのだろうが)
まったく自分の周りには面倒な相手しかいないなと内心で愚痴をこぼすと、ヒヅキは軽く頭を振って考えてもしょうがない事を頭の中から追い出す。
地下街へはのんびりと歩いて移動しているので、到着は当分先だろう。
道中で魔法を少し修練してみたり、過去視の修練に魔鉱石の精製、その合間に記録を木の板に刻んだりと、様々な事をやりながら道中を過ごす。
その間に女性は1度も姿を現さなかったが、そんな事はどうでもいい。水晶の欠片も現在は手持ちに無いのだから。
それはそれとして、久しぶりに充実した道中を過ごし、ヒヅキはやっとこさ地下街から少し離れた場所に到着した。
 




