残響74
ヒヅキは酔っ払いドワーフ達と会話をしてから半日ほど地下砦内を探索した。
その間にヒヅキが居なくなったことに気づいた二人が報告でもしたのか、横穴で作業していたドワーフ達が少し騒がしくなる。
しかし、ほとんどのドワーフが横穴で作業しているからか、普通に地下砦内を歩いて探索していたヒヅキ達が新たなドワーフと遭遇する事はなかった。
地下砦内を一通り調べたヒヅキは、本当に何も無かったなと感想を抱く。ヒヅキにとって価値あるモノはこの地下砦内には無かった。それは感知魔法で調べた横穴の方も同じ。
足を止めたヒヅキは、少し感知魔法に集中して地下砦内を全て調べた事を確認する。
地下に造ったと考えればかなり広大ではあるが、それでも地上に築く砦よりはやや小さい。その分多層になってはいるが、地下深くに掘るのはやはり大変なのだろう。全体的に下よりも横に広がっている。
その分部屋数だけは多いが、使いきれていない感もあった。もしかしたらこの砦は出来て間もないのかもしれない。であれば、場所を考えれば近くに別の地下砦が在ったのだろう。
感知魔法で確認を終えると、ヒヅキはフォルトゥナにもうここには用は無い事を告げて地上へと戻る事にした。
ヒヅキは地上に戻る為に、最初に入った武器庫に向かう。
地下砦内を移動しながらヒヅキは、今にも頭が着きそうな低い天井を見ながら、やはりこれはドワーフの背が低いからだろうかと思う。
ドワーフは成人しても背が低い。といっても極端に低い訳ではなく、大体人間の胸の高さぐらいまでの背丈はある。しかしそれぐらいであれば、ヒヅキでは頭が着きそうな天井でも問題なく歩く事が出来るだろう。
(砦内の戦闘は想定されていないのか、それとも天井が高くなくとも戦えるのか)
武器庫までの道すがら、ヒヅキは少々暇になったのでそんな事を考える。ドワーフは特定の武器を好むというのは無いらしいが、ヒヅキはそれ以上詳しくは知らない。
とはいえ、天井が低くとも戦えるとなると、突くか薙ぐ辺りか。あとは無手という可能性も在る。ヒヅキの場合は光の剣の長さを変えることが出来るので何の問題もないが。
(まぁ、あれなら天井ごと斬れるだろうが)
光の剣であれば、岩盤でも地層でも剣の通りの邪魔にはならないだろう。触れる先から全てを切り裂くような剣なのだから、仮に通常の大きさでも狭くて取り回しが利かないどころか、天井や壁に剣の大きさの溝を刻む事になるだろう。
そんなどうでもいい事を考えていると、直ぐに武器庫に到着する。話し掛けた二人のドワーフは横穴の方に行っている様なので、帰りも誰とも遭遇しなかった。
武器庫に入ると、フォルトゥナに頼んで塞いでいた道を再度開く。塞いでいたのは入り口だけなので、道はそのままだ。
『この穴はどうしますか?』
二人が横道に入ったところで、フォルトゥナはヒヅキに武器庫に開けた穴の取り扱いについて尋ねる。
それに少し考えた後、ヒヅキはそのままでいい事を伝えた。
『畏まりました』
『ま、地上への道は残しとくよ。その結果どうなるかは知らないが』
もう用のない場所の事など知らないとばかりにそう言い放つと、ヒヅキは地上を目指して道を進んでいく。
フォルトゥナは当然ながらそれに異を唱えることはしない。それ以前に何も思わないのだから当然だ。フォルトゥナにとってドワーフなどどうだっていい存在なのだから。
来た道を戻り、地上への道をフォルトゥナが再度開く。その後にそこを通って地上に出ると、ヒヅキは解放感に大きく伸びをする。
「んー……はぁ。やっぱりドワーフの地下は人間には狭いな」
思っていたよりも閉塞感が強かったようで、ヒヅキは伸びをした後に思わずそんな事を零した。
 




