残響73
ヒヅキが手で示した大きさを見た二人は、考えるように腕を組む。
「うーん……オラァ見た事も聞いた事もないな。オメェはどうだ?」
「いや、俺も知らん。水晶は見たことあるが、遺跡の奥でとなるとな……。この辺りで遺跡つうと幾つかあるが、何処も鉱石すら出やしないからな」
「昔は鉱石は少しは出ていたと聞いたが、水晶は知らないな。遺跡内で見つかった物については詳しくないし」
「確かあそこで発掘した物は首都の方へと運ばれているんだったか?」
「ああ。首都の研究機関で保管しているらしいな」
「その研究機関とは?」
遺跡から持ち出された品が運び込まれているという研究機関が気になり、二人の話に割って入るヒヅキ。
「ああ、鍛冶から魔法道具まで様々なモノを研究している場所だよ」
「首都に在るんですか?」
「ああ。詳しい場所については知らんが、一応国の研究機関らしいからな、中心付近にでも在るんだろう」
「俺は離れた場所に隔離されるように在ると聞いたぞ。色々と研究する場所だからな、周囲に何もない方が都合がいいんだとか」
「へぇ、そうなんか。まぁしかし、言われてみるとそうだな。鍛冶場でも稀に火事や爆発なんて起こることがあるぐらいだからな」
「そうだ。だから街中にそんな場所造ってみろ、大惨事になりかねない。規模がデカいって話だしよ」
「ははっ。爆発で首都が吹っ飛んだりしてな!」
「縁起でもないこと言うなよ」
「それでスキアの野郎をどうにかしてくれたらいいんだがよ」
「まぁな。魔法道具だって研究してんだ、スキアをぶっ倒せるぐらいスゲェもんを作ってほしいものだぜ」
盛り上がる二人を見ながら、ヒヅキはこの二人に他に訊く事はないかと思案する。しかし、ここには何も無いようだし、二人共情報通という訳でもないようなので、もう何も訊く事はないだろう。
ではどうしようかと考えるも、始末するのは簡単だが、一応有益な情報は手に入ったので、二人は放置しておく事にする。救援だと思い込んでいる様なので、地上部分まで連れて行ってスキアに始末させてもいいが、それは面倒なので否決した。
それにヒヅキ達は見つかっても問題ないと思っているので、ここで二人が騒いだところで何の意味も無い。何だったらその頃にはヒヅキ達はこの地下空間から消えているだろうし。
そういう訳で、ヒヅキは二人が話をしている間にそっと離れる。二人がどれぐらいこの場所に詳しいのかは知らないが、それでもこの地下空間で暮らしている以上、ある程度は信用できるだろう。
(であれば、本当にここには何も無いという事か)
ただの砦に大して期待はしていなかったので、それは問題ない。むしろ、首都に行けば研究機関とやらに何かしら在る可能性が判っただけでも大きな収穫だろう。ヒヅキは首都である地下街にも行く予定であったのだから。
それでもあの二人がここを隅々まで知っているという訳ではないだろうと思い、ヒヅキは地下空間内を移動しながら周囲に気を配る。
(ふむ。この砦内の大半は横穴の方に居るな。休憩や食事もその近辺で行っているようだし、食料も多くをそちらに移しているようだ。それだけ地下街と道を繋げたいという事か)
地下砦内には水や食料がそれなりに在るようだが、それでもあまりにも長期間は厳しいのだろう。実際、水も食料も残り数ヵ月で尽きそうな量しか残っていない。長い事ここに閉じ込められていたのを考えれば、結構な量が備蓄されていた事が窺えた。しかし、砦内だからか畑などは見当たらない。
それで作物の栽培などをして食料を確保している首都への道を掘り進めているようだが、それにしても進捗状況は芳しくない。
(しかし、折角砦も首都も地下に在るのであれば、最初から繋げておけばよかったのではないだろうか? 何かしらの理由でもあるだろうか?)
ヒヅキはふとそんな疑問が頭に浮かぶも、知ったところで何の役に立つという訳でもないので、それを頭から追い出して地下空間の探索に集中する。やはり地上からの感知と違い同じ地下空間での感知であれば、大分やりやすかった。




