残響72
「あん? 隠れんじゃねぇよテメェ!」
「そっちこそ、やっと自分の間違いに気がついて恥ずかしくなったか?」
ヒヅキが間に差し込んだ手を挟みながら、二人は相変わらず言い合いを続ける。
驚く事に、二人はヒヅキの手をただの置物か何かと勘違いしているようだ。横から差し込まれたというのに、よほど酔いが回っているのだろう。
そんな二人の様子を手早く観察したヒヅキは、それが演技ではないのを確かめると、手を引いて呆れたように息を吐き出した。
この二人が一般的なドワーフと同じだとは思わないが、それでもドワーフとは面倒な相手だと感じたヒヅキは、ドワーフについて自分よりも詳しそうなフォルトゥナに声を掛けた。
『フォルトゥナ。フォルトゥナはドワーフに会った事はある?』
『はい。エルフの国に居た時に』
『そう。なら訊きたいのだけれども、ドワーフって全員こんな感じなの?』
ヒヅキが激しく言い合いをしている目の前の二人を指差してフォルトゥナに問い掛けると、フォルトゥナは僅かに思い出すような間を空けて答える。
『いえ、私の知るドワーフは酔っていなかったからか、こんなに酷くはなかったです。ただ、少々偏屈といいますか、強情なところはありましたね』
『強情ねぇ』
目の前で互いに譲らず言い合いを続けているドワーフ達にヒヅキは小さく息を吐き出すと、面倒だと思いながら今度は顔を二人の間に差し込み、二人へと交互に顔を向けて話し掛けてみる。
「お取込み中のところすみませんね」
今度はそこまで大きな声を出した訳ではないが、突然目の前に現れた見知らぬ顔に、二人は驚きの声を上げた。
「だ、誰だテメェ!?」
「お、お前、何処から入ってきやがった!?」
明らかにドワーフではないヒヅキに、二人が驚きの声を上げる。
現在二人が居るのは、閉ざされた地下空間だ。その地下空間にはドワーフしか居らず、地上にはスキアが跋扈している。そのスキアのせいで地上に出る事も出来ずに道を閉ざしているのだから、新しく誰かが来る事など不可能のはずだった。
しかし、現に二人の目の前には見知らぬ者が居る。それもドワーフとは別の種族の者が。
「も、もしかして救援に来てくれたのか!?」
「スキアはどうしたんだ? まさか俺達が地下に籠っている間にどっか行ったのか?」
酔いが醒めたような顔で一瞬考えた二人は、信じられないといった様子ながらもそう結論を出す。どちらもヒヅキが侵入者だとは考えなかった。
しかし、それも致し方のない事。そもそも現在居る地下空間にわざわざ危険を冒してまで侵入する意味などないのだから。
この場所には何かしらの機密の類いもなければ、重要人物も居ない。貴重な何かも無いし、あってもドワーフの国では普通に手に入るような武具類ぐらいだ。
酒だって高級な物や貴重な物ではなく、樽で幾らという、酒であれば後は量さえあればいいという者向けの安酒だ。
そんな場所である。わざわざ侵入する意味も価値もなかった。であれば、現状に即して考えると、見知らぬ他種族の者が目の前に居るという状況からそう結論を出すのは、それほどおかしな事ではないだろう。それにヒヅキ達があまりにも堂々としているというのも理由のひとつか。
それを聞いたヒヅキは、どう答えたものかと思案しながらも、やはりスキアを倒したという考えには至らないよなと、少々ずれた感想を抱く。
「ひとつ、お尋ねしたいのですがいいですか?」
「え? あ、ああ、なんだ?」
考えたヒヅキは、律儀に疑問に答えなくてもいいかと思い、自分の用事を優先させる事にした。
「お二人はこのぐらいの大きさの水晶の欠片を見たことはないでしょうか? 遺跡の奥などで見つかる物なのですが」
ヒヅキは手で大体の大きさを示す。水晶の欠片は大きさはまちまちだが、大体の大きさはある程度似通っていた。




