残響65
そうして感知魔法に集中して数時間ほどが経過した辺りで、ヒヅキは一旦感知魔法の範囲を狭めて休憩をとる。
(流石に限界まで感知範囲を拡げて、それに集中しながら維持して調べるというのは疲れるな)
少しふらつく頭を押さえながら小さく左右に振ると、腰に下げている水筒から魔力水を一気に飲み干す。
「……ふぅ」
飲み終えて息を吐くと、水瓶を空間収納から取り出して水筒に魔力水を補充する。
水筒に魔力水を補充し終えるとそれを腰に戻し、代わりに空間収納から容器を2つ取り出す。
その2つの容器に魔力水を注ぐと、片方をフォルトゥナの方へと差し出す。それに礼を言ったフォルトゥナは、恭しくヒヅキから容器を受け取った。
フォルトゥナが容器を受け取ったのを確認したところで、ヒヅキは自分の分の容器から魔力水を呷る。思ったよりも消耗していたらしい。
ヒヅキの隣では、ちびちびと魔力水を飲むフォルトゥナ。その姿を横目に、ヒヅキは空けた杯に魔力水を注ぐ。
そのままスキアの様子を探りながら、ゆっくりとした時間を過ごす。頬を撫でる少し冷たい風が気持ちいい。
のんびりと休憩を終えると、そろそろ大丈夫かと思い、ヒヅキは地下街の在る方へと少し近づいてみる。
慎重に近づいたからか、スキアは反応しない。もしくは今までのスキア同様に地下の方に夢中なのだろう。
(相変わらずスキアは執念深いな。おかげで襲撃してこないから文句はないが、地下に行く場合は注意しなければならないな)
ヒヅキ達は周辺を警戒しながら山へと向かう。木々が多く、大きな岩も幾つも転がっているので隠れる場所は多いが、それはスキアに大して意味はない。
山にはスキアが10数体居るようだが、それを確認したヒヅキは、そこまで多くはないなという感想を抱く。確認出来ている地下街の地上部分には、その数倍の数が確認出来ていた。
普通の感覚では絶望的なまでの脅威ではあるが、今まで幾度となくスキアと戦ってきたヒヅキには、それでも脅威には感じない。都市を囲んでいる数でいえば多いのだろうが、ガーデンの時に比べれば半分も居ない。いや、もしかしたら確認出来ていないだけで半分程度は居るのかもしれないが。
とりあえず山を登り、頂上を目指す。大して高くはないので、直ぐに登頂出来るだろう。
そう思い登り始めて、数時間で頂上に辿り着く。道中で何度かスキアと遭遇したが、それは片づけておいた。
頂上から見る景色は、大したものではなかった。やはり標高が低いというのが原因だろう。それに、周辺にも背の低い山々が連なっているので、それが邪魔で見渡すのも満足にはいかない。
その山々にもスキアは居るが、ヒヅキ達の方へと襲い掛かってくる様子はみられない。やはり地下へと集中しているのだろう。
(これなら、そこまでこそこそと移動する必要もないか?)
道中遭遇したスキアを参考に考えると、ある程度近づいてしまうと襲ってくるようだが、そうでなければスキアは基本的にヒヅキ達の方へは興味を示さない。
周辺のスキアの様子を探りながら考え、ヒヅキはもう少し普通に歩いてみる事にする。襲われても脅威ではないので、それは実験も兼ねていた。
そういう訳で、ヒヅキは山道に沿って下山していく。急ぐ必要もないので、足取りはのんびりしたものだ。それでも周辺の警戒を怠らずに山を下りるも、結局はスキアが襲ってくる事はなかった。
(周辺に居たスキアぐらいは確実に気づいていただろうに。という事は、やはりスキアは地下街の方に釘付けか)
ヒヅキはその結果に小さく、しかし満足そうに頷くと、隣の山にも登ってみる事にする。実験は最低でも数回は行わなければならないだろう。
そう思いながら、特に隠れるでも気配を隠すでもなく、ヒヅキは普通に山道を登っていく。標高が高くないからか、山道は緩やかな登り坂なだけで登りやすい。ただ、周辺のスキアに関してはしっかりと把握しているので、今回は近くを通らないようにしてはいるが。
 




