ガーデン6
「あの、すみません」
泣いている少女と、未だにその周囲でおろおろとしている男たちにヒヅキは声を掛けるも、全く反応が返って来ない状態に、どうしたものかと思案する。
「すみません!」
とりあえず声の音量を上げてみるも、相変らず返事どころか反応すらなかった。
「………貴女が落としたペンダントには、小さな魔鉱石が使われていませんでしたか?」
特徴を説明することを思いついたヒヅキは、試しに通常の音量より少し小さめでそう言葉にする。すると、少女たちは面白いようにピクリと反応を返してくる。
そして少女はこちらにゆっくりと顔を向けた。
「どこにあるかご存知なのですか!?」
身を乗り出すようにそう問い掛ける少女の瞳の中には、驚愕に期待に疑念など様々な色が浮かんでいた。
「もしかしたらそうではないかと思いまして……」
少女たちのその反応と切り替えの早さに、ヒヅキは現金なものだと内心で苦笑しながらも、懐に手を入れて仕舞っていた魔鉱石を手のひらに取り、少女が魔鉱石を確認出来るように手のひらに乗せたまま少女の眼前に差し出した。
「これです!私の探していたペンダントは!!」
ペンダントを確認した少女は、喜色をいっぱいに浮かべた顔を勢いよく持ち上げる。
ヒヅキは興奮したように強くそう断言して自分に向けられた少女のその顔を見て。
(嘘はついてない……かな)
その様子からヒヅキはそう判断すると、そのペンダントを少女返した。
「ありがとうございます!ありがとうございます!!」
少女はペンダントを恭しく受け取ると、それを大事そうに胸に抱きながら、ヒヅキに何度も何度も礼を言いながら頭を下げてきた。
「いえ、持ち主が見つかってよかったです」
そんな少女を手で制すと、ヒヅキはそれだけ言って用は済んだと、さっさと踵を返したのだが。
「お待ちください!是非ともお礼をさせてください!」
少女がそんな制止の言葉を投げ掛けてきたので、ヒヅキは仕方なく反転させていた身体を戻す。
「別に礼は必要ありません。それでは失礼致します」
少女に軽く頭を下げると、今度こそその場を離れようとしたのだが、少女がおもむろにヒヅキの手を取ってそれを阻止してくる。
「このペンダントは私にとって、とてもとても大切なものです。それを見つけてくださったばかりか、貴方はこうして親切にも私の手元まで届けてくださりました。そんな恩人に何も礼をしないで返してしまうなど、そんな恥知らずなことは私には出来ません!」
逃がさないとばかりに強く握られた手に、ヒヅキはため息を吐くとともに観念する。振りほどこうと思えば振りほどけるが、さすがにそこまでして固辞するほどの理由をヒヅキは持ち合わせてはいなかった。
(それにしても……)
ヒヅキは少女と周囲の男たちに密かに目を向ける。少女からは感謝の念が強く感じとれるが、男たちからは胡散臭げな者を見る目を向けられていた。
(理解は出来るけど、そんなあからさまな視線を向けなくても……)
男たちは何も口には出さずにヒヅキと少女を見守っているが、男たちのそのあからさまな視線から察するに、ヒヅキに対して「お前が盗んでいたのか」とでも思っているのだろうと、容易に推察出来た。
「それではまずは私の屋敷にご案内致しますわ!」
周囲の男たちがヒヅキに対してそんな疑念を抱いているなど露ほども思わないのか、少女はヒヅキの手を引くと、嬉しそうに歩き出したのだった。