残響58
1つ目の魔法道具を調べ終えたヒヅキは、一息ついて周囲を見回す。
現在居るのは、橋を渡って直ぐの河原。そこは小振りな石が転がっている河原で、岩や流木などの目立つ物は少ない。在っても砦を構築していたであろう石材ぐらいだ。
そんな河原から少し離れた場所に木々が生えている場所が在るが、密度からして森というよりは林だろう。そんなに深くもないようで、林の向こう側にゴツゴツとした岩場が広がっているのが僅かに見えた。
そんな河原だ。砦が健在だった頃は砦が目立っていたのだろうが、その砦が無くなった今では何も無い。
空へと視線を上げると、赤い空が広がっていた。思ったよりも長い時間魔法道具を調べていたようだ。
十分休憩は取ったかと思い、そろそろ先へ進もうかと考えたヒヅキだったが、その前に食事をすることにした。
フォルトゥナに頼んで保存食を出してもらうと、ヒヅキはそれを受け取り、代わりにフォルトゥナに魔力水を渡す。
保存食と魔力水が行き渡ったところで、二人は食事を始めた。
(……相変わらず可もなく不可もなく。不味くはないが、美味しい訳でもないな)
茹でて薄く切って干しただけの芋を噛みながら、ヒヅキはもう少し変化があってもいいなと思う。噛んでいれば若干甘味がにじみ出てくるのだが、結局はそれだけ。腹が膨れればいいぐらいの保存食であった。
一般的にその干し芋は味があまりないので、そのまま食べるよりも煮込むなりして料理のかさ増しとして使用されている。もっとも、旅の最中ではそのまま食べることも珍しくはないのだが。
むぐむぐと口を動かしながら、ヒヅキは背嚢から木の実を取り出して軽く洗うと、それを口に放って齧る。
めきょという圧されてひびが入ったような音と共に、そのひびが拡がっていく感覚を顎に感じる。少しして、木の中心部分が露出した。
ヒヅキは口の中の外殻をペッと吐き捨てると、木の実の中心を噛み潰す。
(苦い。やはり木の実はいいな、味が分かりやすい)
苦味の強い木の実を食べながら、ヒヅキは小さく頷く。ヒヅキは味がはっきりしている方が好みであった。
最後に魔力水を飲むと、すっかり日が暮れてしまっていたが、ヒヅキは先へと進む事にする。
荷物を纏めた後、ヒヅキはまずフォルトゥナに周辺の状況の確認をする。といっても、主にドワーフの国に居るスキアの情報を聞くだけだが。
ドワーフの国は国土があまり広くはない。その代り、鉱山を多数所有しており、鍛冶仕事が盛んな国だ。
街は地下に広がっており、地上には他国との貿易用の街と、鉱山周辺に鉱山労働者の寄宿舎と兵舎が集まった小さな町が在るぐらい。
ヒヅキが知っているドワーフの国の情報はその程度、あまり興味が無かったので後回しにした結果だ。国名すら知らないほどなのだから。
現状はそうして地下に街を築いていた事が功を奏して、地下への道を塞ぐ事でなんとかスキアの侵攻を抑えていた。スキアは穴を掘れないという特性を利用した守りだ。それを狙ってやったかは不明ではあるが。
フォルトゥナの報告も、街が在る地上部分にスキアがうろついているというもの。その為に広範囲に分布しているが、特に多いのは元々地下へと延びる道が在った場所らしい。
それを聞いたヒヅキは、地下の街へどうやって行こうかと思案する。下手にスキアに手を出しては、最悪地上に居るスキアを掃討してからでなけれ地下を目指せない可能性が在った。
フォルトゥナに道を造らせるにしても、スキアの目を盗んで造る必要がある。
(地下への道ね……ふむ)
林の方へと歩きだしながら、どうしたものかと思案する。どうしても行きたい訳ではないが、少しぐらいなら無理してでも行きたいと思えるぐらいの興味はあった。




