ガーデン5
その後も暫しの間騒いでいた一団であったが、驚くほど急激に暗くなる。
「あぁ、どうしましょう。お母様の唯一の形見のペンダントだというのに……」
この世の終わりもかくやというほどに血の気の引きすぎて真っ青な顔に、絶望しきった表情を浮かべた少女はその場に膝をつくと、両手で顔を覆いながらさめざめと涙を流し出した。
そんな少女に周囲の男たちはどうにかしようと周りであわてふためくも、結局為す術無く立ち尽くしていた。
「どこに、どこに落としたのかしら……」
そうして道の片隅で涙を流す少女を眺めていたヒヅキは、その光景に興味を失いつつあった。
だからそろそろ離れようかと思ったところで、ふと先ほど拾った魔鉱石の存在を思い出す。
「ペンダントね……もしかして?」
少女の着ている服はシンプルながらも質の良い生地を使っているようで、とても高そうに思えた。そこから、魔鉱石を持っていてもおかしくはないのか?と、ヒヅキは内心で首を捻る。
「とはいえ……」
例えそうであったとしても、あれに声を掛けるというのには、さすがのヒヅキも抵抗を覚えてしまい、ついつい二の足を踏んでしまう。
「……………」
しかし、もしそうだとしたら無視する訳にもいかないだろうと、ヒヅキは考え直すのだが、やはり衛兵に預ければ万事解決するのではないかとの誘惑が湧いてくる。
「まぁ王都とはいえ、ここの衛兵に預けて大丈夫なのか?という問題もあるが」
魔鉱石は大変高価な代物である。それはヒヅキの拾った小さな小さな魔鉱石でも変わりはない。
なら、そんな高価な代物が持ち主不明で手元に届いたら……普通に暮らしている分には衛兵は決して貧乏にはならないだろうが、かといって特別裕福に暮らせるという訳でもない。
衛兵の中には高潔な人間も居るのだろうが、そんなものは少数派だろう。つまり何が言いたいのかと言うと、ヒヅキは別に衛兵を信用しているという訳ではなかった。
そして、そんな信用してない衛兵に渡さずとも、先に落とし主っぽい相手を目の前に発見したのなら、そのあとにやることは決まっている……と思うのだが、ヒヅキはとても気が進まなかった。それでも致し方無しと腹をくくると、思いきって少女の方へと足を踏み出したのだった。