残響50
光球を先頭に暗闇を進む。それは今までと代わり映えのしない方法。だが、問題なく機能しているのだから無理に変える必要もない。
先頭を進み周囲を照らす光球は、暗闇の中でよく目立つ。なので囮としても役に立つが、光球は魔砲の弾でもあるので、これに攻撃した場合は小規模ながらも爆発が起きる。ヒヅキはその辺りも考慮して離しているが、広いとはいえ地下空間の中だ、何が起こるかは分からない。
少なくとも光球に噛みつこうものなら、跡形もなく消滅するだろう。光球の爆発は吹き飛ばすのではなく、相手を蒸発させる。
しかし周辺に誰も居ないというのであれば、それも意味はない。ただの灯りとしても役に立つので気にする必要もないが。
地下空間は出来るだけ均したような跡があるも、寝心地が悪そうなぐらいには凸凹している。
ただそれを除けば、広い空間は地下とは思えない。
ヒヅキは感知魔法で周囲を調べていき、魔法道具の場所を探る。しかし、そこで僅かに眉根を寄せた。
(魔法道具の数が明らかに減っているな。これは持ち出されたという訳ではなく、完全に破壊されている。いうまでもなくスキアが破壊したのだろうが、スキアは魔法道具まで破壊対象にしているのか)
そう考えたところで、そういえば各地でも壊れた魔法道具は多かったなと思い出す。
(魔法道具か……あれは文明に、はなるか。国だけではなく、時代によっても様々だからな)
魔法道具は遥か昔から存在するのだが、初期の頃の魔法道具は、そこら辺の木の棒などに陣を刻んだだけの代物。
陣自体はその頃から在ったのだが、木の棒などの表面に刻んだ陣に魔力を通す事で魔法を発動させるのも変わらない。ただ、初期の頃は素材にはこだわっていなかったので、大抵が1度の使用で破損してしまっていた。いや、むしろ1度でも起動出来ればいい方という出来だったらしい。
その結果として、魔法道具は広まらなかった。それでも物好きというのはいつの時代にも居るようで、魔法道具の研究自体は細々と行われる。
それから時代が下り、研究の結果として素材が改良されて1度の使用に耐えられるようになった。平均でも数回は耐えられるようになったのはいいのだが、それでも広がらなかった。理由は単純に高価だったから。
魔法道具の素材にこだわったと言っても、当時はそこまで徹底的にという訳でもなかった。素材は少し高価な素材というだけで、それに技術料を足してもそこまで高価ではない。だがそれに、更に長年の研究費を加算した事で、とても高価なモノとなってしまった。
当時の相場でいえば、その魔法道具を1つ買うぐらいであれば、同じ魔法が使える魔法使いを衣食住込みで数年雇った方が安上がりというぐらい。
それだけ高価でありながら数回の使用で壊れる魔法道具など、買う者はほとんど居なかった。購入したのは好事家か、金の有り余っていた者ぐらい。
研究者がそれに気づいた時には既に遅く、魔法道具は高価という印象が強く残った為に、もう魔法道具は誰にも見向きもされなくなっていた。それでも研究自体は続けた者が居たので、今が在るのだが。
因みに現在の魔法道具は、改良されて高価な印象を民衆に刻んだ魔法道具よりも圧倒的に高価ではあるが、それでもしっかりと手入れをして酷使さえしなければ数10年以上は使えるので、こちらは人気商品となっていた。
時代というだけでもそれだけの変遷が在るのだ。それに更に国という要素も加わればより複雑になっていく。これでは十分文明と言えるだろう。
(今では、魔法道具はスキアに対抗できる数少ない武器だからな)
それでも使用者は限られてくるが、魔法使い以外がスキアを倒せる可能性としては貴重な物となっていた。何が幸いとなるか分かったものではないという事か。
 




