残響46
スキアがのんびりと蹂躙していく。といっても、最初に襲撃した集団を全滅させるのに掛かった時間は1分にも満たない短い時間ではあったが。
(それでも狩られる側にとっては、延びた少しの時間は拷問みたいなモノだろうが)
地上で随分と待たされたからか、スキアは嬲るように地下に居た者達を狩っていく。しかし嬲るといっても、スキアの場合は人間などのように暴力を振るって相手をいたぶる事はしない。
時間を掛けてじわじわと恐怖を与える訳でもない。やる事はただ数秒殺すのを遅らせるのみ。
もっとも、それで十分相手に恐怖を与えることが出来るので、意趣返しとしてもそれで充分なのだろう。
考えてみればいい。仲間が次々と殺されていく中、逃げる事しか出来ないという状況と、それでも逃げきれないという状況。戦っても勝てず、隠れる暇も意味も無い。
振り返れば次の瞬間にはスキアの爪が眼前に迫っている様な状況だ。しかし、それでも運がいい方だろう。もっとも運がなかったのは、最初に襲撃された者達か。
(器用な真似をする。殺傷能力の高いスキアの攻撃で、脆弱な相手を殺さずに瀕死にさせるとはね)
死ねずに床に転がる者達は、人数が減っていくのをただ見ている事しか出来ない。いや、それを認識出来ているかも怪しいものだ。
そうして殲滅を終えると、スキアは最後に瀕死の者達を狩り取った。それを終えたスキアは次の場所に向かって移動していく。
(ん?)
そんなスキアの様子を追っていると、ヒヅキは新たなスキアを感知する。
(あの道を感知したのか? 近くに居たのが地下へと下りていくな)
一瞬で移動したスキアは、地下に下り立つと一旦立ち止まって周囲を見回すように顔を動かした。
(? 探るように移動しているな。地上では一瞬で距離を詰めてきて襲撃するのだが、地下だとそれが難しいのか?)
その行動を疑問に思いつつ、もしかしてと考える。それでも普通は脅威だが、ヒヅキにとっては元々スキアは大した脅威ではない。その分生態に興味が向いた。
(地下だと力が鈍る。何処かで聞いたような話だ。それほど強く制限される訳ではないようだが、それでも興味深い)
スキアとウィンディーネの共通点は同じ神から生み出されたという事だろうが、ウィンディーネの話し振りからして、地下を得意としている存在は居るらしい。であれば、そこは関係ないだろう。
(地下と言えば、感知魔法も地下だと弱まってしまうか。だがあれは、地上から地下を調べた場合に限るからな。地下で地下を調べた場合はそこまで影響しないから、関係ないだろう。しかしそうなると……ふむ。よく分からないな)
ウィンディーネの話を基に考えるのであれば、何かしらの区分というモノが存在するのだろう。そうであれば、地下は別の何かの領域という事で、ウィンディーネやスキアはまた別の区分の存在という事か。
(ウィンディーネは水……いや、この場合は地上という方がいいのか? であれば、スキアも地上を領分とする存在に属するという事。人間でいえば、地上が自国で地下が他国と考えれば近いだろうか。そして、その領分ではその領分の法律が有効だと)
そう解釈すれば分かりやすいかと考えたヒヅキだが、直ぐにそれに何の意味も無い事に気がつく。とにかく、地下と地上では支配者が異なるという事が分かればそれで十分だろう。
そうなると神はどうなるのかと思うも、神にそんなモノが在るとも思えない。
女性の話では、神は別次元に存在しているという話だったので、そもそもこの考え自体が無意味なものだろう。そうヒヅキが結論を出した頃には、地下の制圧はほぼ終わっていた。
ヒヅキの当初の予想通り、スキアの相手が出来そうな者は地下には居なかったようだ。




