残響36
「………………」
コズスィの要である教主達が生きている。それは現状から推測出来る可能性のひとつでしかない。
更にはそれをスキアが探しているなど、出来過ぎた話かもしれない。国としてのコズスィが亡んだのは、もう随分と昔の話だ。仮に首都陥落から逃れたとしても、未だに生きているとは限らない。
それに、もしも生きていたとしても、コズスィ領内に留まり続けているというのも不自然だろう。
だから違うだろうと思いながらも、この後に確認しに行ってみようかと、ヒヅキは考えた。
しかし、問題がない訳ではない。なにせヒヅキは、教主や幹部連中の顔を知らないのだから、たとえ見つけたとしても特定は難しいだろう。
特に教主に関しては、年齢どころか性別すら分かっていない。唯一コズリという名前だけは知っているが、それが正しいか不明だし、名前など偽ろうと思えばいくらでも偽れる。
その辺りをどうにかしたいが、現状ではどうにもならない。教団本部であろうとも、今のところ資料らしいものは見当たらない。あっても汚れたり破けた紙ぐらいだ。
ヒヅキはもう少し調べてみるかと、周辺の瓦礫をどかしていく。内心では直ぐにでもスキアが何かを探している付近に行って、何を探しているのか突き止めたかったが、1度心を落ち着けた方がいいだろうという判断であった。今のままでは、誰かを見つけたら問答無用で殺してしまいそうな気がしたから。
その後も教団本部の建物址内を調べていくも、めぼしいものは見当たらない。それだけ長い間放置されていたという事なのだろう。
(それでも何かしらの資料がひとつぐらいは残っていてもいいとは思うが…………やはり、事前に重要なモノは持ち出したという事か)
半ばそう確信しつつ、ヒヅキは探索を切り上げる。
一応幾つか小物を見つけたものの、どれもコズスィの印が刻まれていたので、ヒヅキはそれらを調べた後に全て光球の中に放り込んで消し去った。
あとは読める資料も幾つか見つけたものの、月ごとの寄進の額の推移や住民の数の増減、僧衣の発注書などで、ろくなものがない。
それらは適当に戻しておいたが、あとは元は食べ物だったと思われる石ころみたいなモノぐらいか。
フォルトゥナの方も芳しくないようで、地面に隠し収納のような場所を見つけたはいいも、中には何も入ってはいなかった。
探索を終えて休憩を少し挿んだ後、ヒヅキは首都内の探索に戻る。
広い首都である、もしも何者かが漁った後だとしても、見落としているモノのひとつやふたつぐらい在るだろう。逆に無いのであれば、どれだけ大規模な盗賊団だという話だ。
(もしくは長期間盗んでいたかだが、過去視には動物以外誰も映っていないんだよな)
そう思いながら首都内を探していく。別に食料は必要ないが、何か有用そうなモノでも落ちていないかと思いながら。
(流石に魔法道具はないよな。しかし、ここは魔法道具も独自に発展させていたようだし、もしかしたら可能性はあるかもしれない。工房でも見つかればいいが、コズスィの首都の区画は詳しくないからな)
ヒヅキはコズスィを憎んではいるが、コズスィが技術的に発展している国であったのは事実なので、ヒヅキとしてもそれについては興味があった。
それに様々な種族が暮らしていたので、今はもう国が亡んだために存在していない技術なんかもあるかもしれない。
ちょっとした知的好奇心だが、意味はあるだろう。魔法道具であれば、フォルトゥナが直ぐに作れるだろうし、ヒヅキが魔法道具を調べる参考にもなる。
普通の武具類は正直興味は無いが、少し前にフォルトゥナが神に精神を乗っ取られた時の事を思えば、普通の剣を1本ぐらいは所持していた方がいいのかもしれない。




