残響35
コズスィの首都中央。教団本部の建物が建っていた場所。
ヒヅキが調べた情報では、教団本部の建物は五階建ての一際高い建物で、横幅も奥行きもあってそこらの国の城よりも大きかったという。
それは足下の基礎部分を見ればよく分かり、その基礎部分から推察出来る大きさは、ヒヅキの記憶に在るガーデナー城よりも大きかったかもしれない。
しかし、それも今となってはただの瓦礫の山でしかなく、そこから何かしらの情報が得られればいいがと、ヒヅキは大して期待もせずに探索に取り掛かる。
探索に取り掛かるといっても、やる事は瓦礫の除去。積み上がった広大な瓦礫の大地を、目的もなくひたすらに掘り進めていく。
それは一種の拷問であったが、とりあえず適当に掘り進めていく。フォルトゥナは以前見せた空気の壁を使って、広範囲の瓦礫を押してどかしている。
しかしやはりというか、めぼしいものはない。本部でこれであれば、盗まれたという線が濃厚だろう。
(必要な分を持って逃げたにしては何も無さ過ぎる。仮に事前にスキアの攻撃を察して逃げたとしても、やはり何も無さ過ぎる。かといって、何者かが奪ったとしても、根こそぎ過ぎる気もするな…………)
瓦礫をどかして見つかった物は、泥で汚れたり破れている紙や、バラバラにされた何かの木片。干からびた何かなど、およそ使えそうもないモノばかり。
汚れて破れた紙は何かの資料であった可能性は高いが、読めなければそれも意味はない。
そんな不用品以外のモノはないかと思うも、長いこと風雨に晒されてきただけに、あっても使えそうもない代物ばかり。
(駄目か。折角ここまで来たのだが)
一際広い空間であったのだろう場所を探しながら、ヒヅキは小さく息を吐き出す。
コズスィというのは危険な宗教団体とされてきていたが、それでいて謎が多い宗教団体でもあった。ヒヅキがいくら調べてみても、表面的な事しか分からないほどに。
信者の口が堅いというのもあるが、コズスィの上層部が秘密主義で下には何か伝えるという事をあまりしていないようで、信者も詳しくは内情を知らないだけ。
それでも信仰があれば気にならないようで、それに対する不満が国民から溢れた事はない。
そんな気味の悪い国ではあるが、少数ながらも世界中に信者を潜ませていたので、逆に情報収集には長けていたという。
であればこそ、ヒヅキはもしかしたらスキアの襲撃の事をコズスィ側は知っていた、という可能性を考える。もしもそうだとしたら。
(事前に重要そうなモノは避難させていた可能性があるか。それでも全ては持ち出せないだろうから、スキア襲撃後に何者かが漁ったのだろう。しかし、今重要なのはそこではない)
事前に避難させていた重要そうなモノとは、考えつくのは金や貴金属類など分かりやすく価値が在るモノや、内情を記した書類などの資料。そして、教主などの重要人物。
(………………コズスィの教主は生きている? 重要人物の中には幹部達も含まれているだろうし……)
まだ思いつきの段階ではあるが、もしもそれが事実であったならば、赦されざる事であろう。コズスィの根幹でもある者達が生きているなど、ただの戯言であったとしてもヒヅキには許容出来ない話だ。
(まだ仮定の話だが、もしもそうであったとしてら一体何処に逃げた? 現在は世界中がスキアの襲撃に晒されている。例外と言えばカーディニア王国、いやガーデンぐらいだろう)
ではそこに? とも考えたが、もしそうであれば、噂程度はヒヅキの耳にも届いただろう。
しかし他に向かえる場所というのも無い。現在は何処もスキアの攻撃に晒されている最中なのだから。
(移動中に襲撃を受けたとか、もうねぐらを襲撃されたとかではないのであれば、案外近くに隠れているのかもしれないな)
そう考えたところで、ふと閃くものがあった。
(………………向こうで何かを探しているスキアというのは、もしかしてそれを探しているとか? いや、そんな訳はない、のか?)
それは何だか突拍子もない考えのようだが、その可能性は全くないとは言い切れなかった。




