残響25
感知魔法でも袋の中ぐらいは確認出来る。ただし、あまりに中身が詰まっていて空きがない場合は難しいが。それでも、紙などに文字が書かれただけの本の中身を調べるよりはずっと楽だ。
ヒヅキが意識を小袋の中の金に集中させていく。そうすると、中には金塊の他にも少量の硬貨が入っていた。そちらは金貨という訳ではなかったが、それでも希少な金属を使った硬貨で、ヒヅキの記憶が正しければ、金貨を超える価値があった。
とはいえ、知識は在っても実物を見たことがないヒヅキには、それが本当にそうなのかは断言できない。金貨を超える価値など庶民には生涯縁がないモノであるし、なによりカーディニア硬貨には金貨までしかないというのもある。
それでも使われている金属の希少性から価値は高いのだが、それを使用している国でも、国家事業などの大規模な金が動く際にしか使用されないような代物で、専ら大量の金貨の代わりに財を保管する為の硬貨でしかない。
そんなモノが数枚とはいえ、その小袋の中に入っている。正直中に入っている全ての金塊よりも、その硬貨1枚の方が価値は高いだろう。
(…………ふむ。大金だな。そして、硬貨に彫られている文様だが……)
ヒヅキは金塊には目もくれず、その珍しい硬貨に意識を集中させていく。
硬貨は国で用いられている金である以上、その国を現す何かが表面に彫られているものだ。それを見て、その硬貨が何処の国で流通している硬貨であるか判別できる。
そして、その小袋に入っていた硬貨の文様を確認したヒヅキは、そっと魔砲の準備を進める。
(決まりだな。あの硬貨に刻まれているのは、コズスィの文様。実際にコズスィでそれが流通していたかどうかなど関係ない。あれが大切にそこに保管ざれている。それだけで関係している可能性が高いだろう)
無論、可能性を考えれば他にも可能性は存在する。例えば、金属の希少性から何処の国でも高値で取引される硬貨なだけに、たまたまコズスィの国で流通していた硬貨を手に入れた持ち主が、財産の一部として保管していたとかだろうか。
しかし、ヒヅキにとってはそれさえもどうでもよかった。ただコズスィに関係したモノが在る。ヒヅキにしてみれば、それだけで排除の対象であった。
それに加えて前回の砦の事もある。同じ組織と思われる以上、コズスィと何らかの関係がある可能性はかなり高い事が容易に想像がつく。
そう考えて結論付ける頃に、魔砲の準備が整った。他に気になるモノも無いので、さっさとスキアごと吹き飛ばす事にする。
(別に訊く事もないからな)
魔砲を砦に向けて放ちながら、ヒヅキは内心でそう呟く。相手の組織がどういった組織であるかなど知る必要はない。仮にどんなに善良な組織であったとしても、コズスィと関係している時点で排除することは確定しているのだから。
ヒヅキが放った魔砲の弾は、前回と異なり緩やかな放物線を描き砦内に着弾する。そして次の瞬間には、砦も攻めていたスキアも全てが光に呑み込まれて消滅した。
今回も広さはそこそこだが、深さは大してなかったのでそこまで疲労はなかった。だが、念の為にヒヅキは休憩する事にする。
(そういえば、ここを訪れた商人の一団はどうしたのだろうか?)
興味もないので確認しなかったが、そういえばと思い出して過去視で確認してみるも、拠点内の幻影が多すぎてどれが誰だかわからない。それでも砦に入った後に出ていった幻影がないようなので、先程の光に呑み込まれたのだろう。
どうでもいいかと過去視の起動を止めると、魔力水を飲みながら次の行動を考える。
ミャニュリュリィリエールに在った組織は壊滅させたが、その後が分からない。規模を考えればこれで組織自体が壊滅したという訳ではないだろう。であれば、まだ何処かに残っているかもしれない。
(コズスィがあった地を目指してみるか、それとも翼人の集落が在るという場所を目指してみるべきか)
さて、どうしたものかと考えつつも、ヒヅキは消費した魔力の回復に努めながら休憩していく。




