残響23
その幻影の後を追うように、ヒヅキ達も首都への道を逸れていく。
流石に歴史ある国だけあり、道はそれなりにしっかりと整備されている。まぁ現在はそれも砂に埋もれているが、それでも石畳だからか、まだ何とか道として機能はしていた。道を使う者にとってはそれだけで十分なので、不便はない。
何処までも何も無い場所に延びている道ではあるので、道しるべとして機能もしている。見晴らしがいいので、警戒もしやすい。
(空や地中の警戒は必要だが、最近は鳥も見てないしな。地中に生息する生物も居たと思うが、この辺りにはどうなんだろうか? 何も感知できないから、この辺りには居ないのかもしれないな)
そう思うも油断はできない。もっとも、スキアを警戒している関係で常に周囲を警戒しているので、襲撃されても直ぐに気がつくだろうが。
それにフォルトゥナも警戒しているので、それを潜り抜けて襲撃できるのであれば、むしろ感心するほどだろう。
ヒヅキは時折感知魔法から過去視に切り替えて周囲に眼を向けるも、商人の一団と思しき幻影しか視えない。たまに何かの動物のような幻影が遠くに視えるが、道の近くには来ないようだった。
(この道に獣除けの魔法でも掛けられているのだろうか?)
そう思ったところで、いや、と自身でそれを否定する。
獣除けの魔法といってもそこまで万能ではないし、実際は獣除けという訳ではない。ただそういった用途に使われる事が多かったからそう呼ばれているだけ。それに、これは主に魔族やエルフなどの保有魔力の高い種族が使う魔法だ。
というのも、この魔法は保有魔力量が一定以下の者が近づくと不快感を覚えるようになる魔法なので、そもそも保有魔力量が少ない人間や獣人では自身にも効果が及んでしまう。
逆に動物でも魔力量を多く保有している場合には効果がない。この辺りの調整は術者自身が行うので幅がありすぎる魔法でもあった。
そして、そんな性質があるので、人間や獣人の国ではほぼ使われていない。
使われていても、一部の魔力が高い者や冒険者が使うぐらい。理由も様々で、自身の研究を護る為とか、選別の為とか色々だ。
ほとんど物語の中の話ではあるが、魔族の中でも特に魔力量が多い者は、自分の住処を獣除けの魔法で覆い、侵入を防いでいる者も居るとか。
だが実際、それは難しい。なので、もしも侵入を防ぐというのであれば、獣除けの魔法だけではないだろう。
結局のところ、獣除けの魔法は設定した魔力量以下の者に不快感を与えるだけでしかないのだから、ここには居たくない、近づきたくないと思わせる程度の制限を掛けるのが精一杯。
なので、それでも進んでやろうと思う者は防ぎ切れないのだ。無謀な者というのは何処にでも居る。むしろそういった場所こそ好んで行くような変わり者も居るぐらいなので、重要な場所を護るのであれば、精々がやって来る人数を絞れる程度の魔法でしかなかった。
では街道などに用いればどうなるかだが、そんなのは単純に利用者が激減してしまう。獣人は保有魔力量が総じて少ない傾向にあるし、そのうえで街道を利用する商人の数も減るようであれば、道としての意味を成していない。それでいて、商人が減って物流が滞るとなれば、冗談抜きに滅びの道と化してしまう事だろう。
つまりは、少なくとも獣人の国であるミャニュリュリィリエールの街道にそんな魔法が掛けられている訳がないという事だ。
であれば、どうして動物は道に近づこうとしないのか。それについては謎であった。
(魔法が掛かっている感じもしないから、後から魔法が掛けられたという訳でもないだろう。であれば、単なる偶然? ……にしては長い事何も近寄らない訳もないか。ならば、何かにおいでも付いているのかもしれない。スキアににおいがあるかは分からないが、この辺りを支配している何かのにおいかもしれないし、そこまでいくと分からないな)
ヒヅキは魔力には敏感ではあるが、嗅覚に関しては一般的な人間よりはやや鋭い程度でしかない。なので、そんな人間では嗅ぎ取れないようなにおいの事などヒヅキに分かるはずがなかった。




