残響19
移動を再開させてさらに数日。やっと終わりが見えてきた。
(ここを通れる時点で、この幻影も普通ではなかったのかもな)
ヒヅキ達でも約10日ほども掛かった道程である。いくら一本道だとしても、普通の者が通れるような道ではない。
それは身体能力が高い獣人や、魔法に長けた者でも同様だろう。この道が廃れたのだとしたら、そういった理由かもしれない。拡張するにも労力は必要だ。
しかし、そんな大変な道を通った者でも、呆気なく終わりを迎えた訳だが。
道の終わりと言っても、幻影が上へと続いているだけで、道自体はまだ続いている。その先がどこまで続いているのかまでは不明だが、まだまだ延びているようだ。
幻影が上に続いている部分に到着すると、そこには入り口と同じ鉄の柵に木の板を張り付けただけのふたが被せられている。
「ん……」
ヒヅキはそれに触れて下から押し上げるように力を込めるも、思ったよりも重い。上に結構砂が乗っているのかも知れない。
しかし少し力を込めると、ふたが僅かに持ちあがった。
持ちあがった隙間から外を覗き見ると、砂が荒れ狂う様子が目に入る。どうやら砂嵐がきているようだ。
ヒヅキはふたを下ろすと、砂嵐が収まるのを待つ。隙間から見た光景は一面砂だらけで、完全に砂漠であった。どれだけ長い事雨が降っていなかったというのか。
(この周辺に例の拠点があるらしいが、スキアの反応は――)
ふたの真下から少しずれた場所に腰を下ろして休憩すると、ヒヅキは過去視を終えて集中して周辺の様子を探っていく。そうすると、直ぐにスキアの反応を捕捉した。
(少し離れているな。そしてあそこが砦か……中に居るのは獣人が主か。他にも人間やドワーフ、少数だがエルフも居るな。奥の方に翼人だと思われる者も居るし、ここが幻影の組織で間違いないだろう。こんなところで何をしているんだ?)
疑問に思いつつ、砦内を感知魔法で調べていく。そうすると。
(!!)
砦の奥の奥。人目に晒されないようなその場所に、幾つかの道具が保管されていた。その道具のひとつに描かれていた文様を確認したヒヅキは、一瞬息を呑む。その文様には覚えがあった。
(コズスィが使っていた文様……ひとつだけだから何処からか持ってきただけで偶然そこに在っただけか、それともこいつらは残党なのか……)
ヒヅキは考えるも、とりあえスキアが砦を潰さなくとも自分で潰すかと決める。話を訊いてもいいが、そんな温情は必要ないだろう。
(たとえ無関係だったとしても、いずれスキアに潰されるのだ、それが少し早まるだけ。大事にあんなものを保管している時点で生かしておく必要はないからな)
砦の場所は確認しているので、とりあえず砂嵐が収まったらスキアごと砦を吹き飛ばすかと決めて、ヒヅキは魔砲の用意をしていく。砦の規模も把握しているので、それに必要な分だけを調節しながら。
それが終わると、魔砲を待機させながら魔力水を飲んで身体を休め、外の様子が静かになった辺りでヒヅキはもう1度外の様子を確認してみる。
ふたの間から覗き込んだ外の世界は静かになっていたが、すっかり暗くなっていた。
砂嵐が収まっていたので、ヒヅキは力を込めてふたを横にどけると、何とか外に出る。
外に出ると、その場所は岩の中に造られた出入り口のようで、砂が少し積っていただけで埋もれてはいなかった。完全に埋もれていたらふたは開かなかっただろうから当然だが。
ヒヅキは岩の上に立つと、周囲を見回す。周囲は岩がところどころ確認出来るだけで一面砂の海であった。
遠くの方に何か在るようだが、とりあえず砂の上に一歩足を踏み出してみる。砂に足が沈むも、動けないほどではない。靴の中に入ってくる砂を我慢すれば問題ないだろう。
念のために現在地についてフォルトゥナに確認したヒヅキは、周囲を警戒しながら近くに在る砦を目指して移動を開始した。




