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酒場2

 ヒヅキがケンにお世話になることを告げたタイミングで、カランカランとドアベルが乾いた音色を奏でる。

「いらっしゃいませ」

 元気ながらも控えめな声でケンの姪っ子が来店したお客さんを出迎えると、入ってきた三人組の男たちは慣れた足取りで一番近くの机を囲って座る。

 その三人組から直ぐにお酒の注文が入ると、ケンもヒヅキからそちらの対応へと意識を切り換えた。

 一時的とはいえ話し相手が居なくなったヒヅキは、目の前のジョッキに手を伸ばして、今度は中に入っているお茶を少しだけ口に含んだ。

 口のなかに広がるほのかな苦味を味わいながら、ヒヅキは明日の予定を考える。と言っても、朝早くにチーカイの町を出ても、カイルの村に着くのは夕方近くになるだろうから、予定と言っても大半が移動時間で、あとはヤッシュに売り上げを渡して、ついでに簡単な報告を済ませるぐらいしかないのだが。

「明後日にはいつも通りの日々だな」

 ヒヅキは小さく息を吐くと、また一口お茶を口に含んだ。その時、カランカランと次の来客を告げるベルが店内に鳴り響いた。

 そのベルの音につられたヒヅキは少し首を動かして横目に入り口を確認すると、そこには赤茶色のシャツに緑色のズボンを履いた鮮やかな赤髪の男を先頭に、青やら黄色などの派手目の服に身を包んだ男女五人組が入店してきたところだった。

「………冒険者かな?」

 遠目という程の距離ではないが、若干光量が抑えられている店内では細かい部分までは確認出来なかったが、それでも五人組の隠そうとしていても隠しきれていない鋭い雰囲気に、ヒヅキはそう推測する。それに一瞬ではあったが、先頭の赤髪の男がシャツの下に目立たないように革鎧を身につけているのをヒヅキは見逃さなかった。

 それでも、別に荒事をしに来た訳ではないだろう事は雰囲気や店員への態度で理解出来たので、ヒヅキはそれだけ分かれば十分だろうと、顔を正面に戻した。

 その五人組は入り口で少し話をすると、机ではなくカウンターの方に移動する。これでカウンターの残りの五席が埋まり、カウンターは満席になった。

 ヒヅキはそれを特に気にすることなく、カウンター越しに冒険者らしき五人組に応対しているケンを横目に、一人静かにお茶を飲んでいた。



 あの後もう一組来店し、酒場はそれなりに賑やかになっていた。

(そろそろケンさんの家に行こうかな、ツグさんが家に居るらしいし)

 そんな中、お茶もそろそろ無くなりそうになり、満足したヒヅキは、この時間帯ならケンの旦那であるツグが留守番をしていたはずだと思い出し、そろそろ店を出てケンの家に行こうかと考えていると、

「お兄さんはよくここに来られるんですか?」

 隣に座っている赤茶色のシャツに赤髪の男にそう話し掛けられた。

「ん?いや、たまにですよ」

 ヒヅキは眠そうな顔を男に向けると、慌てることなく―――酒場ではたまにあるので慣れていた―――そう答えた。

「そうなんですか~。お兄さんはこの町の人なんですか?俺らはいろんな場所を旅してまして、この町は初めてなんですよ~」

 ヒヅキは赤髪の男を妙に馴れ馴れしい男だとは思ったが、そんなことはおくびにも出さずに返答する。

「いや、私はこの町の住人ではないですよ。それにしても、よく初めてでここを見つけられましたね」

 ヒヅキのその問いに、赤髪の男は僅かだが目に力を入れたのが見てとれた。言葉にすれば「待ってました」というところだろうか。

「最初は大通りの方の店を廻ってたんですがね、なんか奥のこっちの方にも店があるっぽい話を小耳に挟みまして、それでこれは探索してみなければ!と思いまして、それでやっと探し当てたんですよ~。いやー、看板が出てて本当によかった!」

 赤髪の男の口調は達成感の籠ったものだったが、ヒヅキは「ケンさんは気休め程度とは言っていたけど、看板はちゃんと役に立ってるんだな」と、何だかそちらの方に感心してしまっていた。

「なるほど、ここは大通りから大分中に入った場所ですからね。それに看板が無いと外観はただの民家に見えますもんね」

 うんうんと数度頷きながらのヒヅキの言葉に、何故だか赤髪の男は感激したようにヒヅキの方へと身を乗り出す。

「分かってくれますか!」

 手でも取りそうなその勢いにヒヅキは気圧されながらも、何とか顔に愛想笑いを張り付けることだけは忘れなかった。と言っても、半ば苦笑いになっていたが。

「いや、まぁ、そうですね、ここは観光には向いてないですからね」

 対処に困ったヒヅキは、とりあえず思いついたことを口にしてみた。

「そうなんですよ!まさしく穴場!だからこそ良いんですよね!」

 それが赤髪の男の何かしらの琴線に触れてしまったのか、ただでさえ興奮していたのに、段々と更に興奮していく赤髪の男。その様子にヒヅキは暑苦しさを感じて、笑顔の裏で結構引いていた。

(こういうタイプは苦手だな~)

 ヒヅキの笑いが苦笑から困惑の色が強く出始めると、突然赤髪の男の隣―――ヒヅキとは反対側―――から赤髪の男の頭部目掛けて手刀が降り下ろされた。

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