残響10
進行方向から推察するに、女性が眠っていた遺跡に向かっているのだろう。
それを追ったところで結局はホーンに在る洞穴の中までなので、追うだけ無駄。それに、今回はこの謎の幻影の正体を探る事が目的なので、追うならば逆方向だろう。
なので、ヒヅキは足の向きを変えて移動していく。
とはいえ、謎の幻影はひとつではない。それも様々な方角から集ってきているので、追うべき幻影を選ばなければならないが。
(まぁ、ガーデンとは逆方向の幻影でいいだろう。カーディニア王国国内の組織であれば、何かしら話が入って来ていてもおかしくはないと思うが……だが、現状では他国で組織を維持しているのは難しいか?)
進行方向をやや修正しただけの道を進みながら思案するも、幻影の違いは大して判らないので、ほとんど勘で決めるしかない。そもそも情報自体が乏しいのだから、それもしょうがないのだが。
ハズレであれば、別の道を進めばいい。それぐらい気楽な気持ちでヒヅキは進んでいく。方角的には獣人の国の方角か。
(獣人の国か。方角的にはそうだからといって、そうとは限らないが……それにしても獣人とはよくよく縁があるモノだ)
遺跡の調査中に襲われた辺りから、何処かへ行けば獣人と遭遇するか痕跡が見つかった。
それにヒヅキは最初の襲撃の際に獣人族が何かを探していたのを思い出した。であれば、あれは獣人族の国からの刺客などではなかったのかもしれない。
(それがこの剣だったのか? であれば、拠点は獣人の国?)
ヒヅキは背嚢の後ろに隠すように背中に負っている剣へと一瞬視線を向ける。
(…………何にせよ、面倒な話である事には変わりないか。国が関わっているのだとしたら、更に面倒になってしまう。幸い、と言っていいのかどうかは分からないが、現在はスキアの襲撃の最中。国が存続しているかも怪しい状況では、面倒も幾分か緩和されている事だろう)
悪い部分ばかり考えるのも気が滅入ってしまうので、ヒヅキは何か良い材料はないかと考えた結果、そう思った。スキアの襲撃も、ヒヅキにとっては悪い事ばかりではないらしい。
(ついでにその組織も壊滅していればいいんだが。とはいえ、獣人のみの組織ではない以上、仮に関わっていたとしても、獣人の国のみが関わっているとは限らないか)
しかし直ぐに嫌な事に思い至り、ヒヅキは今すぐにでも帰りたくなった。とはいえ、相手が強大なのであれば、なおさら調べておかなければならないだろう。
(毎度毎度、謎だらけだな)
そう思えばいつも通りだと言えなくもないので、そんなに悲観するほどでもないのだろう。今までだって、それで何とかなってきているのだから。
(まぁ………………)
ヒヅキはそう思って背後の方に意識を向ける。実際に何とかなっているのだが、それでも何かする度に余計なモノが増えているような気もしていた。それも多分に面倒なモノ。
(気楽な一人旅を夢想した事もあったのだが)
最初こそ冒険者達と旅を始めたヒヅキだが、ソヴァルシオンを出た時には一人であった。そのまま旅が続いていたのであれば、今も一人旅が続いていた事だろう。
しかしそうはならなかった。その事を思い、ヒヅキは今更ながらに何を間違えたのだろうかと考えてしまいそうになる。
(今はそんな事を考えている場合ではないか。過去視に集中しなければ、まだこれは油断できないのだから)
普段であれば休みなしに幾日も幾日も進むのだが、今回は過去視を使用しているので、数日移動した後に少し休憩をとる事にした。魔力水を水筒に補充する必要もある。
ヒヅキは水筒の代わりとなるモノをガーデンで探したのの、使えそうな物は見当たらなかった。移動だけならばそれで問題無いのだが、やはり戦闘中となると厳しい。
水筒に魔力水を補充しながらヒヅキはどうしたものかと考えるも、答えは出なかった。
僅かな休憩を挿むと、移動を再開する。
やはりエイン達が居ないと移動が早いもので、途中で休憩を挿む回数や時間も少ない分、あっという間に獣人の国に近づいた。しかし、その前にキャトルに少し入らなければならない。
キャトルとの国境付近に到着したヒヅキ達は、幻影が通った道を逆に進んでいく。そこは道らしい道の無い場所であった。




