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残響4

 ヒヅキがエイン達のところに戻ると、エインは外套に付いている帽子を目深に被って顔を伏せていた。

 戻ったヒヅキに気づいたエインは、顔を少し上げて困ったような申し訳ないような微妙な表情をヒヅキに向ける。

 しかし、たとえエインに多少は原因があろうとも、別にエインが悪いという訳ではないので、ヒヅキは気にしていないという思いを籠めつつも、困ったような小さな笑みを返した。

 大通りの近くを歩いて引き続き周囲の話を聞きながら情報収集を行うも、大通りには行かずにその場を離れる。

 しかし、行き先については特に決めていない。ヒヅキのみであればこのままシロッカス邸へと挨拶しに足を向けるのだが、今はエイン達が居るので、どうしようかと悩む。

 前回ガーデンを出発する前にはエイン達もシロッカス邸で世話になっていたので、このままシロッカス邸に赴いても問題はなさそうだが、それでも先程聞いた噂があるので、ヒヅキはあまりエインと一緒に行動したくはなかった。

 それならばプリスの邸だろうと思い、ヒヅキはついてきているプリスに声を掛けた。

「プリスさん」

「はい、何でしょうか?」

「これからプリスさんのお宅に向かおうかと思うのですが、いいでしょうか?」

 そうヒヅキが声を掛けると、プリスは困ったような表情を浮かべながら、申し訳なさそうに言葉を返す。

「申し訳ありません。エイン様が王宮を去った際に職を辞したので、あの屋敷も出たのです」

「そうなんですか?」

「はい。ですが、現在は私の部下だった者達が使っているはずですので、訪ねる分には問題ないかと」

「とはいえ、あまり長居する訳にもいかないがな。王宮を去ったのだ、そこはしっかりしておかなければならない」

 プリスの言葉に、エインがそう付け加える。確かにプリスの家があった場所は、王宮に勤める一定上の地位を有する者が暮らす区画。であれば、エインと共にガーデンを去った以上そこを出るのは道理だし、全てを辞して引継ぎまで済ませたエインの言も理解出来た。

「そうですね」

 そういう事であれば、どうしたものかとヒヅキは思案する。

(ここはもう諦めてシロッカス邸を訪ねるべきであろうか?)

 シロッカスであれば、エイン達を連れて行っても快く迎えてくれそうだが、問題はそこではなくヒヅキの気持ちの方であるので、中々に難しい。ただ、解決策がない訳ではない。

(別に誰かの家を訪ねなくとも、宿屋を探せばそれでいいのか)

 長い事ガーデンではシロッカス邸で世話になっていたヒヅキは、初めて来た時に宿屋を探した事を失念していた。あの時も結局は宿屋の世話にはならなかったが。

(問題があるとすれば、今のような状況でもやっている宿屋が在るのかどうか。いや、これは在るだろう。現在は他所から人が流れてきている訳だし、以前よりも賑わっているかもしれないな。であれば、問題は空きが在るかどうか、だな)

 幸いと言うべきか、現在はヒヅキもお金をそれなりに所持しているので、昔のように木賃宿をわざわざ探す必要がない。それに宿泊費用が上がれば、その分部屋の空きが在る可能性も上がるだろう。

 ヒヅキは脳内にガーデンの地図を思い浮かべると、進路を変えて宿屋が集まっている区画に向かう事にした。

 今でも同じ場所に宿屋が集まっている区画が在るのかどうかは分からないが、そうそう動かせるものでもないだろう。少なくとも、前回ヒヅキがガーデンに居た時には、まだその区画は存在していた。

「何処へ行くんだい?」

 進路を変えたヒヅキに、エインが問い掛ける。ヒヅキが行き先を告げると、エインは考えるように被っている帽子の先を掴み、それを深くした。

「それだとバレる可能性が高くなりそうだが」

「まぁそうですね。しかし、そんなに頻繁に顔を出していたので?」

「いや、そうではないが、全く出していないという訳ではないからな」

「そうですね。指揮を上げる為の演出の時には顔を出されていましたからね」

「うっ」

 何について言っているのか理解したエインは、困ったように口を閉ざす。

「でしたら、お二方はシロッカスさんのところへ行かれてもいいのですよ? むしろそちらの方が都合がいいのですが」

「む。言いたい事は解るが、私としては君の傍に居たいのだがね」

「……こちらとしましては、一緒に居ない方が面倒が減って助かるのですが」

「相変わらず君は冷たいな」

 エインはそう呟くも、理解はしているのだろう。そこに怒っているとか気分を害したといった感じはなく、代わりに申し訳なさが見え隠れしていた。

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