ガーデンへの道
なだらかな大地の一面に背の高い草が生えているマイグーラ草原一帯は、カーディニア王家が代々受け継いできた地であった。
正確にはマイグーラ草原のごく一部だけなのだが、それは元を正せば、カーディニア王家はマイグーラ草原に存在した小さな村の長でしかなかったからである。
そんなただの村長が広大な地を治める国王にまで登り詰めることが出来たのは、偏にその強運のおかげだと言えた。
カーディニア王国に存在する貴族の子女が通う学園では、教養としてカーディニア王家の歴史を学ぶことがあるが、そこでは誠意と武功を積み重ねて王になったと教えられる。だが実際は、そこまで耳心地の良いやり方ばかりではなかった。
「領地が拡がれば、それだけ色々なしがらみがあると言うことなのかね……」
マイグーラ草原を進みながらカーディニア王家の歴史を思い出していたヒヅキは、そんな感想を漏らす。
ヒヅキが現在進んでいるのは、マイグーラ草原の草の中……ではなく、商人や旅人などのために整備された石畳の道の上であった。
「それにしても、人が多いことで」
ガーデンに近づくにつれ、同じようにガーデンを目指している人が増えていく。それは、各所から延びている複数の道が、城門へと続く大きな道に合流しているからだろう。
「草原、ねぇ」
確かに遠くには背の高い草が目に入るのだが、現在歩いている道の道幅があまりに広すぎて、まるで街中のようであった。
「本当に、俺は田舎しか知らなかったと嫌でも思い知らされるな」
まだガーデンまでの途上ではあるが、ソヴァルシオンに続いての大都市の洗礼に、ヒヅキは感嘆とも呆れともつかない息を吐き出した。
生まれ育ったカーディニア王国南端の国境近くはさることながら、唯一訪れたことがあるチーカイ以上の都市であるエルフの街もここまではなかった。エルフ族は森の中に住み、自然を大切にしている種族なので、比較対象にするのは間違えている気がしなくもないが。
「それにしても………」
ヒヅキは周囲の人々に目線だけをさりげなく向ける。
(はじめて来たから人の量やどんな人が来るのかまでは分からないけど、妙に血生臭い人間が多いような………ガーデンに向かう人ってのはこんなものなのかな?)
ガーデンへと向かっている者たちには冒険者を筆頭に、傭兵や武器や防具を扱っている商人なんかがよく目につき、逆にガーデンから出ていく者たちには一般市民、特に幼い子どもを連れた家族連れが多いような気がした。
そんな印象を受けたヒヅキは、小さく首を傾げる。
そのままガーデンに向けて歩みを進めると、次第に嫌な予感が強くなるのを感じたヒヅキは、(気のせい、気のせい……)と自分に言い聞かせ続けながらも、ガーデンへと到る道を歩み続けるのだった。