残響3
ヒヅキがあまりにも真剣に話を聞くものだから、男は徐々に饒舌になっていく。
その話によると、ソヴァルシオンに侵入したスキアは、崩れた防壁近くに在った家屋や住民を幾らか蹂躙した後に、ソヴァルシオンの冒険者達に討伐されたらしい。
しかし、とうとう侵入を許してしまったというのがソヴァルシオンの住民には衝撃的だったらしく、もうソヴァルシオンも終わりだと騒ぎだす者も出てきたらしい。
そんな中、ソヴァルシオン以外で唯一機能している都市であるガーデンへとソヴァルシオンの一部の住民が逃げてきているのだとか。それもこれから増え続けるので、復興の人夫に宛がったとしても、直にガーデンでも受け入れられなくなるだろう。という話だった。
それに、どうもソヴァルシオンでスキアに蹂躙された場所が、無法者達が多く集まる場所だったらしく、その影響で神罰だと喚く者達も出て来る始末。その影響も合わさり、現在の厭世的な雰囲気に繋がっているらしい。
そして、饒舌になった男が続けて語った内容に、ヒヅキは内心で苦笑を浮かべる。思わず表にそれが出そうになったほどに、それは聞きたくなかった話であった。その話とは。
「しかしな、兄さんも門なんかで感じたとは思うが、ガーデン内がこうも沈んだ雰囲気なのはよ、それ以外にも理由があるんだよ」
「それは一体?」
「まぁ正直、俺としてはこっちの方が1番の理由だとは思うんだが、兄さんはエイン様の事は知っているかい? 元々王位継承権第3位辺りだったかな? だった御方だ」
「ええ。勿論知っていますとも」
エインの名を出した男からは負の感情は感じられなかったので、ヒヅキは一瞬の判断でやや食い気味に頷いた。
その判断は正しかったらしく、男はより機嫌よさそうな雰囲気になる。
そんな反応に、ヒヅキから少し離れた場所から話を聞いていたエインは、嫌な予感がしたのか僅かに顔を背けると、急いで外套に付いていた帽子を被った。
「そのエイン様が、少し前、といってももう数ヵ月前ぐらいになるが、ガーデンを出ていかれたのを見たという者が居てな。そのすぐ後ぐらいにエイン様が王位継承権を放棄されたという話が王家から公表されたから、この目撃情報は事実ではないかとまことしやかに囁かれていたんだが、それで今回のソヴァルシオンの1件だろ? そりゃ、ガーデンのみんなも暗くなるってものさ」
「……何故そこでエイン様の噂とソヴァルシオンの件が重なるので?」
心底分からないといった感じのヒヅキに、男は少し呆れたようにしながらも、ちゃんと説明してくれる。
「今回のソヴァルシオンの件だが、つまりはソヴァルシオンが落ちた場合、次はガーデンの番だと誰もが考える訳だ」
「そうですね」
カーディニア王国で残っている場所は、ソヴァルシオンとガーデンのみ。村などの小さな集合体は在るも、一定以上の規模となると他には無い。なので、ソヴァルシオンが落ちれば、スキアの次なる標的がガーデンに移ると考えるのは理解出来るとヒヅキは頷いた。
「以前ガーデンはスキアに襲われた事があったが、その肝心な時に冒険者達は逃げだしやがった。だから、ガーデンのみんなは冒険者をイマイチ信用していない。それに、ソヴァルシオンを護りきれていない訳だしな」
「な、なるほど」
そこまで聞いたヒヅキは、その続きを理解して問うたことを後悔した。しかし、もう遅い。男の話はまだ終わっていないのだから。
「そこでガーデンのみんなが頼るのが、以前スキアを殲滅してくれた忠義の騎士様だ」
忠義の騎士。それは以前ヒヅキがスキアを殲滅する際に、隠れ蓑として演じた役どころであった。
「しかし、その忠義の騎士様はエイン様の従者という話だったから、エイン様がガーデンを出ていかれた際に一緒にガーデンを出ていかれたのでは、という話があってな」
「それで、先程の話に繋がる訳ですね」
それ以前に既にガーデンを去ったという話なんかも在ったはずだが、ヒヅキはもう話を終わらせようと、その辺りには触れずに話を戻す。
「そういう事だ。ソヴァルシオンが落ちた場合、次はガーデンだというのに、その際に頼りになる忠義の騎士様が居ない。という事は、ガーデンも終わりじゃないのか、ってな」
「なるほど」
エインと一緒に忠義の騎士がガーデンを出ていった。実際は少し異なるが、間違ってはいなかった。忠義の騎士役であるヒヅキは、確かにエインと共にガーデンを離れたのだから。
まさかアレがこう繋がるとは、と頭を抱えたくなったヒヅキだが、ヒヅキが忠義の騎士を演じていたというのはごく一部の者しか知らないので、素知らぬ顔で過ごせば問題ないだろうと思い直すことで、何とか持ち直す。
それから話を変えたヒヅキは、ついでとばかりに現在のガーデンについて話をもう少し訊いた後、男達と別れてエイン達と合流した。




