表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
781/1509

人探し102

(何の為に旅に出たかはこの際どうでもいい。それよりも、俺は誰と旅に出た? 一人ではなかったはずだが)

 記憶に靄でもかかっているかのように曖昧な記憶を遡りながら、ヒヅキは必死に記憶を手繰り寄せていく。

 しかし、思い出す光景は、どれも誰かと一緒に歩いている光景。旅に出た時には誰かが傍に居たのは確かだろう。それも複数人。しかしそれが誰かまでは思い出せない。男か女かも曖昧で、どちらも居たような気もするが、どちらか片方だけだったような気もしてくる。

 勿論顔も思い出せないし、名前や年頃だって思い出せない。

(おかしい。これは流石におかしい。確か同行者は冒険者達だった様な気がするけれど、それも自信がない。どういう事だ? フォルトゥナの時は幼かったからだと思ったが、今回のこれは流石におかしいだろう。確かにそれなりに時間は経ったが、それでも旅に出たのなんて10年も20年も昔の話ではない……はずだ。10年は経っていないはず。そのはずだ)

 段々と怪しくなる記憶に、ヒヅキは気味の悪さを感じる。まるで記憶を何者かに食われている様な、そんな不気味さ。そう感じた時に、頭の奥が一瞬ずきりと痛みを発したような気がした。

(前にも似たような事を考えたような気が? いや、気のせいか……)

 以前にも似たようなことを考えたような気がしたヒヅキだったが、そんな訳はないかとその考えを棄てる。今はそんなことよりも、深刻な事態になっている事に気がついたばかり。

 とりあえずヒヅキは、どこまでならば覚えているのかと記憶を進めていく。

(今まで行った場所の位置ぐらいならば覚えているのだが、そこで何をしたのかになると、途端に記憶が曖昧になる。人の顔も名前もところどころ危うい部分があるな。まだそれに気づけるだけマシなのかもしれないが、それにしても酷い。一体これは何なのか、というよりも、いつからこうなっていたのか。原因については直ぐに幾つか候補が浮かぶというのは、考えものだが。……我が事ながらも、おかしな道を道を歩んでいるものだな)

 あまりに深刻な事態に、一周しておかしささえこみ上げてきたヒヅキ。いくら考えたところで自力ではどうにも出来ないというのも大きいのだろう。最早開き直るよりほかない。

(…………今更だが、日記でもつけるべきかね?)

 失った記憶はどうにもできないが、それでもこれからの記憶を残す努力はすることが出来る。無駄な足掻きだろうが、ヒヅキなりの細やかな抵抗でもあった。

 ただ問題があるとすれば、それを書き記すためのモノがない事か。質の悪い紙は少しあるが、それでも貴重だ。枚数も多くはないので直ぐに尽きるだろう。

 竹簡や木簡は途中で材料を調達すればいいだろうが、嵩張ってしまう。これも考えものであった。

 日記を書くのもままならないが、しかし記録というのであれば何も日記である必要はないし、そう頻繁につける必要もない。何かあった時に端的に記録するだけであれば、そこまで多くの文字も必要ないだろう。それこそ絵にしてもいいのだから。

(結局は自分が解ればいいのだが、あまりに簡略化した場合、その意味を忘れてしまっては意味を成さないからな。記録をしていた事を忘れたり、文字を忘れたりした場合はどうしようもないが、その場合は諦めもつくだろう)

 可能性まで考えては身動き取れなくなってしまう。なので、ヒヅキは今出来る事で最善だと思えるものを行う事にする。

(そこまで大きくはないが、確か木の板があったはずだから、それに短剣ででも文字を刻めばいいだろう)

 そう決めると、次の休憩で準備だけしておく。短文でも刻むには時間が掛かるだろうから、ゆっくり出来る方が望ましい。

 途中で昼休憩を挿んだ際に準備だけ済ませて、直ぐに背嚢から取り出せるようにしておく。

 そうした後に更にガーデンへと進み、天幕を張って野営を行う。夕食を終えてエイン達が天幕内に入った後、ヒヅキは背嚢から木の板と短剣を取り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ