人探し101
(やはり話を訊くのであれば、そちらを頼るべきか? しかし、また話が出来るかは分からないからな)
声の主側からであれば、起きている時でもヒヅキへと声を掛ける事が出来るようだが、ヒヅキから話をしようと思うと1度寝ないといけない。もしかしたら他に方法があるのかもしれないが、ヒヅキはそれを知らないので、現状ではそれしか方法はない。
何処かで寝る時間を作るかと考えたヒヅキは、空を見上げる。大分考え込んでいたようで、夜空は色を薄くしていた。
視線を前に戻すと、離れた場所に帰ってきた女性の姿。
ヒヅキは小さく頭を振って、別次元に向いていた意識を切り替える。女性に訊く事も大してないので、帰ってきた女性に挨拶だけして、エイン達が起きた気配を感知して、朝食の準備に取り掛かる。
それも直ぐに済んだので、後はエイン達が天幕から出てくるのを待つだけ。フォルトゥナからは何も報告がないので、周辺に異常はないようだ。
『フォルトゥナ』
『何で御座いましょうか?』
『やはりこの周辺にはスキアは居ない? というか、この国にはスキアは居ない?』
『はい。私が感知できる範囲に限りますが、スキアは居ないようです』
『そうか。やはりまだこちらには来ていないのか。では、何処に行ったのか』
カーディニア王国の状況は、ヒヅキがガーデンを発った時とあまり変わらないよう。しかしホーンが亡びた今、状況は神の目論見通りに世界の亡びへと順調に進んでいるという事になるだろう。
(さて、この国の平和もいつまで続くのやら)
他人事のようにそう思いながら、ヒヅキは天幕の中から出てきたエイン達へと視線を向ける。
エイン達と朝の挨拶を交わしながら、ヒヅキはエイン達をガーデンに置いていった後の事を少し思う。しかし、それはヒヅキには関係のない話だろう。
(俺は……この先どうなる事やら)
村に戻って以前の暮らしに戻る。そうありたいとは思うのだが、ほぼ確実にろくな事にはならないだろう。それはヒヅキでなくとも解る事。
ウィンディーネや女性が付いてきている。ただその一事だけで、その先に明るい未来がない事は直ぐに解るというのに、加えて手元には神殺しとまで呼ばれている剣。ヒヅキが扱える魔法もまた厄介な物ばかりで、フォルトゥナの存在がどれだけマシかと、そこまで考えてヒヅキは内心で苦笑を漏らす。
(これはまぁ、ろくな死に方は出来ないだろうな)
少なくとも、老衰の様な穏やかな死は得られないだろう。
ヒヅキは過去視は使えても未来視は使えない。しかしそれでも、容易に想像がつく。ヒヅキが歩み到達する先は、おそらく神との対峙。そして、そこでの死だ。
(ホント、俺は何なんだろうな)
悟ったような静かな心境で、ヒヅキは一瞬遠くへと目を向けた。
そのまま朝食を食べ終えると、片付けを済ませる。それから何処か虚しい感情のままにヒヅキは出立する。後ひと月から遅くともふた月ほどでガーデンに辿り着けるだろう。
それから先について思案しながら、ヒヅキは草原を進む。
(そもそも、何で旅に出たんだっけ?)
思い出そうとするも、もうそんな事さえ思い出せない。時間が経ったというよりも色々あり過ぎたからだろうが、それでもヒヅキはその事に少なからず衝撃を受ける。
家族の事はまだ思い出せるし、育ての親の事もまぁ、思い出せる。それでも驚くほどに曖昧で、ヒヅキは自分の記憶力の無さに驚きを隠せない。幸い先頭を進んでいるので、その焦りを悟られるような事はなかったが。
(……いや、おかしい。いくら何でもこれは、記憶力が有るとか無いとかそういう話ではないような気がするが)
しかし直ぐに冷静になると、ヒヅキはその事に違和感を覚えた。なので、今度は試しに旅に出てからの事を思い出してみることにする。




