人探し99
次元の斬り方についてヒヅキが確認した日の夜。夕食を終えてエイン達が寝た後に、ヒヅキは剣を手に虚空を眺める。
現在地は、カーディニア王国側砦跡のカーディニア王国側の防壁前。到着した時間的に天幕を張れる場所に到着するのは難しそうだったので、砦跡を出るのは止めた。
天幕を張らなければエイン達が露地で眠る事になるので、それでは次元を斬る際に気になるという理由からの判断であった。
虚空に目を向けながら、剣の柄を握る手についつい余計な力が入る。
「ふぅ」
ヒヅキは心を落ち着ける為にゆっくり息を吐くと、身体に入った余分な力を抜く。
「さて、始めるか」
小さく呟くと、ヒヅキは剣を持って上段に構えると、そのまま何も無い空間へと振り下ろす。そうすると、空間に小さな裂け目のようなモノが現れる。
しかしそれだけで、見た目はほとんどヒビと変わらない。それでも微かに斬れている様なので、ヒヅキは恐る恐るその裂け目に近づいて顔を寄せると、緊張しながら覗き込んでみる。
その僅かな裂け目から覗き込んでみると、その先には何かが見えた。
しかし裂け目が小さすぎてよく見えない。それでも、裂け目の先が昼間のように明るいのだけは分かったので、おそらく別の世界に繋がっているというのは確かなのだろう。
「…………よく分からないな」
結局は裂け目の先が明るいという事しか判らないので、ヒヅキは残念そうに呟く。
女性は例のごとく休憩に入ると直ぐに何処かへと姿を消したので、この場には居ない。なので、その裂け目の先が本当に異世界に繋がっているのかどうかを判断出来る者はこの場には居なかった。
ウィンディーネはよく分からないが、何となくこの事で質問するべきではないとヒヅキは考える。
それでも一応覗いた事になると思うので、ヒヅキは裂け目から顔を離す。これで駄目ならば、また試せばいいだけ。その時は同じ次元とは限らないが、元々目的の次元というモノが無いので、それは今更だ。
顔を離したヒヅキは、裂け目を眺めながら思案するように顎を撫でる。
「さて、この裂け目はこの後どうしたらいいのだろうか? 放っておけば直るのかな?」
剣の使い方には次元を斬る方法は在ったのだが、修復する方法はなかった。なので、ヒヅキにはその裂け目をどうにかする術がない。
とりあえず裂け目を眺めながら、ヒヅキは困ったように思案する。しかし何も出来ないので、とりあえず目だけは向けながら過去視の制御を行う。
過去視の制御を目を開けながら行っているので、幾つもの幻影が目に入ってくる。しかし、流石に過去視を修得してから時間が経っているので、それも慣れたものだ。
そのまま時が経ち、空の色が大分薄くなってきたところで、裂け目の端が修復を始める。
「ああ、やはり時間で直っていくのか」
1度修復を始めると、裂け目は凄い勢いで直っていく。修復が始まるまでは結構掛かったというのに、修復後は一瞬で元に戻った。大体10秒ほどで直ったのではなかろうか。修復後は虚空に何も残っていない。
その空間の修復が終わって少ししたところで女性が戻ってくる。
「どうでしたか?」
空間を斬った結果を女性が尋ねてきたので、ヒヅキは空間を斬った結果を伝えた。
ヒヅキの説明を聞いた女性は、ひとつ頷いて口を開く。
「無事に成功したようですね」
「そうなのですか?」
「ええ。貴方がどんな事を想像していたのかは知らないですけれど、次元を切断してもその程度ですよ。むしろその程度でも次元を斬る事が出来るという事が凄いのですから。それほどに、別の世界というのは壁が厚いのですよ」
「なるほど」
「それで、その裂け目から先を覗いたのですよね?」
「はい。明るかったので、しっかりと覗けたと思います」
「でしたらそれで条件は整いましたね。後は貴方次第ですよ。その覗いた次元に関しては視る事が出来るようになっているはずですから」
「そうですか。それで、どうやって視れば?」
「それは貴方次第ですよ。というよりも、その方法で別次元を覗き見る事が出来るようになるのは知っていますが、どうやって覗き見るのかは私には解りませんね」
「そうでしたか」
「ええ。ですが、それで別次元を視る事が出来るようになるのは確かなので、頑張ってください」
そういった女性に、ヒヅキは謝意を籠めて頭を下げる。やり方は解らずとも、これで別次元が視られるようになるのが判れば、それで十分であった。
 




