人探し96
(理由にも因りますが、何であれ、それでこの世界は救われているという事です……が、きっと遊び場を壊したくないとかそんな下らない理由でしょうね。まぁそれはともかくとしまして、どの眷属にどんな権限を与えたのかが気になりますね。分割されているのでしたら楽なのですが…………)
女性は目を伏せると、腰の方に手を持っていこうとして気がつく。
(ああ、剣は彼に託したのでした。駄目ですね、困った時はあの剣に頼ってしまう)
手を元に戻すと、女性は寂しげに小さく息を吐き出す。
その後にヒヅキ達の方へと視線を向けると、朝食を食べ終わり片付けをしているところであった。
程なくして天幕の片付けまで終わり、ヒヅキ達は出発する。女性もその後について行く。
ホーン側の砦跡を過ぎて、カーディニア王国を目指す。ホーン側の最後の砦を過ぎたので、そこまで砦跡から離れていないとはいえ、その先の道は整っていないので移動速度はあまりでない。
ホーン側から国境までは下り坂が多い。その為に足取りは慎重なものとなって、より移動速度を落としている。障害になりそうな存在が居ないのは幸いか。
何日も掛けてその道を進み、国境を超える。
国境を越えると上り坂になるが、それも少し登れば直ぐに下り坂に変わっていく。カーディニア王国側の道は起伏が激しい。それでも全体的には下りの距離が長い。
更に幾日か掛けてカーディニア王国側の砦跡に到着する。
「以前ここに立ち寄ったのが随分と昔のように感じるな」
砦跡に到着すると、エインが周囲に目を向けて呟く。確かに以前ここを訪れてからそれなりの日数が経ってはいるが、この場合はその間に色々あった影響だろう。
砦跡内に入り少し進んだところで、夕方になる。手近な場所を片して天幕を張ると、日が完全に暮れる前に防水布を敷いて、その上に腰掛ける。
その後に夕食を摂ると、エイン達は天幕に入っていった。
ヒヅキは過去視の制御がてらに落ち着いて周囲を確かめながら、以前と変わった様子はないかと調べていく。
(やはり幻影が増えてはいるが、これはホーン側の砦跡で視たのと同じだと思うから、カーディニア王国の調査員だろう。元々はエインさんが統括していたようだから、それが未だにこうして機能しているという事は、しっかりと引継ぎがされていたという事か……これを未だにエインさんが管理しているなんてことはないよな? まぁ、旅に出てからエインさん達に誰かが接触した様子はないのだが)
別に未だにエインが管理していても何の問題もないどころか、ヒヅキとしては、これからエイン達をガーデンに帰すので、逆に未だにエインが管理していた方が都合がいい。しかしそう上手くはいかないだろうと諦めているヒヅキは、なるようにしかならないかと深く考えない事にした。
他には何も変わった様子はないかと周囲を見回すも、視える範囲では変化はない。記憶が間違っていなければだが。
(それにしても)
ヒヅキは周囲を一通り確認したところで、遠くの方に目を向ける。現在居る場所からは視認できないが、その視線は水晶の欠片を見つけた場所に向いていた。
(あの幻影は何だったのだろうか?)
水晶の欠片が在る場所を回っていた幻影に、ヒヅキは改めて疑問を抱く。今になって考えてみれば、あれはまるでそこに水晶の欠片がある事を報せようとしていたみたいであった。
(仮にそうだとして、でも誰に? あの周囲には少し離れた場所に幻影は在ったが、同時期ではなかったと思うが……)
思い出してみればその幻影はかなり前の幻影で、おそらく女性が通った時よりも前の幻影。それもヒヅキが視る事が出来るギリギリ辺りだろう。
そもそもからして、その幻影は水晶の欠片周辺を回っている姿しか確認出来ないようなおかしな幻影だ。何があってもおかしくはないのだろう。
それでもヒヅキは気になったので少し考えてみる事にした。その幻影がなんだったのかを。




