人探し87
ウィンディーネの言葉に、女性は鼻で笑うように息を吐き出す。
「貴方では無理ですよ」
女性はヒヅキへと顔を向けたまま、ウィンディーネへと憐れむような声音でそう告げる。
「さて、何の事やら」
「まぁ、それならそれでいいですが。どこまでいっても、所詮貴方は貴方。その夢は見果てぬ夢だとそろそろ気がつくといいでしょう。貴方はまずは夢から覚めて現実を直視するところからですかね」
「……何の事やら、といったところですね」
「どうやら理解は出来ているようですね。それは僥倖。後は現実と向き合うだけ。いくら他人を頼りにしても、その願いは叶わない。それ以前に、相手を道具程度にしか考えていない様では、成せるものも成せませんよ…………まぁ、最初から成せないのですが」
冷たく憐れむような女性の声音に、ウィンディーネは女性へと僅かに目を細めて向けると、苛立ちを微かに表に出した。
「貴方程度では、今の私でも脅威にも感じませんね。それではいつまで経っても首輪すら外せないでしょう。相手は腐っても神と呼ばれる域にまで達している存在。その強さは全盛の私ですら勝利が覚束ないほどなのですから、今で全盛に近い貴方では、土台無理な話」
「………………」
女性の言葉にウィンディーネは苛立ちを焦燥に変えて眉を僅かに寄せる。その様子へ一瞬視線を向けた女性は、密かに呆れたような息を吐き出した。
(どれだけ異質でも、所詮はあれの眷属。足を引っ張り合うだけの神も問題ですが、弱い者いじめを好む神も問題ですね。そして、この中途半端な神擬きも今や世界に蔓延っている。全てはあの時歯車が狂ってしまったせい…………いや、そんな訳はない。そんな事は断じてない! あの方の献身が原因など言わせない。あの方は託したのだ、今後の者達に。原因というのであれば、その前から足を引っ張り合っていた神達の方でしょう)
女性は思案しながら、ウィンディーネの視線を軽く流す。女性にとってはウィンディーネ程度の強さでも脅威には感じない。そんな相手の視線など何の痛痒も感じなかった。
(まずは力を取り戻さなければ話は始まりませんね。そもそもあの神は倒すのが難しいのですよね。まずは所在を見つけなければ何も進みませんし、所在を暴いたところで次はそこへ辿り着く方法を見つけなければならない。そうしてその地に赴いてからがやっと始まり。その地は神の領域ですから行動も筒抜けだというのに、その中で神の本体を見つけなければならないのですから骨が折れます。それだけ面倒な手順を踏ませるくせに、本体の強さも神と呼ばれるに相応しいのだから本当に厄介な存在ですよ)
ウィンディーネの視線を無視しながら、女性はヒヅキへと視線を固定させたまま、思案を継続させる。神と呼ばれる存在について最も理解しているからこそ、警戒も対策も怠る訳にはいかない。
現状では、まだ神を倒せるほどに女性の力は戻っていない。ヒヅキが水晶の欠片と呼ぶ女性の力の源である動力の欠片は、まだ七割ほどしか集まっていないのだから。
欠片は大きさがまちまちなので数が在るとは限らないが、何処に在るかまでも分からない。
(そこまで細かくは砕けていないと思うのですが…………)
かつて女性は神と戦った事があった。
それは女性にとっては本意の戦いではなかったが、結局女性はその戦いで神に敗れて封印されてしまう。
しかし、敗れたのに封印だけで済んだのは、神でも女性を消す事が出来なかったからであった。
動力と身体を分けられた後、身体をそのまま封じられ、動力の方は砕かれ各地に封印されてしまうが、それは神が女性を警戒している証ともいえた。
それとは別に、女性が所持していた剣も封印させられていたが、それは後に神があの場所で剣を見つけて行った事。剣が女性とは別の場所に在ったのは、剣の能力であった。




