人探し84
剣が壁を通り抜けると、場に漂っていた気持ちの悪い空気も霧散する。それが神の残滓が消滅したのを報せてくれた。
「さて、これで目的は達成できたけれど……」
追っていた対象を見つけて目的だった水晶の欠片を渡した以上、目的は達した事になる。つまりは現在のヒヅキには目的は無い。神と戦うなど無理。ヒヅキでは神より弱いというウィンディーネにさえ勝てないだろう。
後はエイン達をガーデンまで送り届けたら、やる事はなくなる。ヒヅキは別に世界などどうだっていいのだから。
「………………」
剣を鞘に納めながら、これからどうするか思案する。直ぐに思いつくのは、過去視を制御する事ぐらいか。
とりあえず洞穴から出ようと、ヒヅキはエイン達へと近づき声を掛ける。
「そろそろここを出ましょうか。それとも、もう少し休憩していきますか?」
未だに座っているエイン達にそう言って声を掛けると、エイン達は首を振って立ち上がった。
「私達は大丈夫。それより、もう用は済んだのか?」
「ええ。後は帰るだけです」
「……そうか」
エインは少し残念そうに頷く。しかし、ヒヅキに目的がない以上、帰る以外にする事もない。他の幻影が何だったのかなどはヒヅキにとってはどうでもいい事。それが誰でどんな目的があろうともヒヅキには関係のない事だし、直に世界は亡びるのだから。
二人が立ち上がったところで、ヒヅキはやってきた方向に目を向ける。その後に奥にひっそりと続いている道へと目を向けた。
(ここが最奥だったのではないのか?)
そう思うも何処に続いているのか分からないので、先に進むつもりはない。それ以前に、続いているのかすら不明だ。
(それに神の残滓を消したというのに、未だに感知が万全な状態にならないのは何故だ?)
周囲を探ってみるも、入ってきた時よりは良くなったとはいえ、未だに上手く働かない感知魔法に疑問を抱く。未だに神の残滓が完全に消滅していないのかもしれない。
(元を絶てば全てが一気に霧散するというものでもないのだな)
そう結論付けたところで、よく分からない奥の道は無視して、来た道へと足を向ける。
「さて、では戻りますか」
ヒヅキがエイン達にそう告げてから進みだすと、その後にエイン達が続き、最後尾に女性が付いてきた。
「………………」
戻るにもこの道か、何処に続いているのか分からない奥の道しかない。ずっとここに居る訳でもないだろうし、別に敵意は感じられないので、ヒヅキはそのままにしておく事にした。もしかしたらヒヅキが持つ剣に用があるのかもしれないので、洞穴を出たら話をしなければならないだろう。ヒヅキは別に剣を必要としていないので、女性に剣を渡す事になっても何の問題もない。
食事についても、女性は必要としないだろう。あの女性はおそらく人形であろうとヒヅキは予想している。生きた人形というのも変な感じではあるが。
洞穴の出口に向かって進むも、剣が在った場所まで進むのにも結構な日数が掛かったので、それなりに距離が在る。とはいえ目的を達したので急ぎではないので、休みながらのんびりと洞穴内を進んでいった。
それから幾日か経って、洞穴の外に出る。洞穴内は終始暗くて時間の感覚が無かったが、外に出ると夜であった。
静かな外の様子は、入る前と変わらない。変わったのは洞穴内から漏れ出ていた気持ちの悪い感じがなくなったぐらいか。
夜空の明るさ的にまだ宵の口といった辺りなので、近くに在った平らな場所に防水布を敷いてそこに座る。今日のところはエイン達はそこに寝かせればいいだろう。
ヒヅキ達四人は夕食を摂ると、一息つく。外の空気というのも久しぶりで、周囲が岩に囲まれていないので閉塞感も無い。
ずっと洞穴内だったので、夕食を終えたら今日はそのまま休む事にする。防水布の上はエイン達に明け渡したヒヅキは、フォルトゥナと共に近くの岩の上に腰を下ろした。




