表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
760/1509

人探し81

 取り出した小箱を女性へと差し出すと、小箱が女性の視界に入ったところでヒヅキはそのふたを開けた。

 その箱の中に入っている水晶の欠片を目にした女性は、小さく「ほぉ」 と感心した様な声を出す。

「その欠片を私の手の上に乗せてはくれませんか? 乗せてくれるだけでいいですし、全てでなくてもいいです。とりあえず少しあれば動けるので、それから改めて渡してくれれば問題ありません」

「分かりました」

 女性の言葉にヒヅキは頷くと、小箱の中から水晶の欠片を3個取り出して女性の手に置く。すると、水晶の欠片は女性の手の中に沈んでいった。

 水晶の欠片が沈んで数秒待つと、女性は顔を上げてヒヅキの方へと顔を向けた。

 ヒヅキに向けられた顔は非常に美しいモノであった。ウィンディーネやフォルトゥナとはまた違う気圧されるような神聖な雰囲気だが、何となく世界が違った印象をヒヅキは受けた。それはまるで根本からして全くの別物の様な、ヒヅキ達とは似て非なる存在といった感じ。

(なるほど。今の神とは異なる神が生み出した存在か)

 ここに至って、ヒヅキはようやくその言葉の意味を真に理解する。同じ空間の触れられる場所に居るというのに、まるで女性とその周囲だけが別世界であるかのように遠く感じられた。

「ありがとうございます。残りの欠片を頂けますか?」

 女性が手を差し出してきて告げた言葉にヒヅキは一瞬遅れて頷くと、小箱の中身を全て掴み女性の手のひらの上に乗せた。

 その水晶の欠片もまた、女性の手の中に沈むようにして吸収されていく。

「ああ。これ程の力が戻ったのはいつ以来でしょうか………………」

 上を向いた女性が恍惚としたような顔と声音でそう呟くと、ゆっくりとヒヅキの方へと顔を向ける。

「ここまでの力を集めて頂き感謝します。それだけの力がある事は既に確認させていただきましたが、運もまた在る様子」

 先程までの鋭い視線から穏やかな目になった女性は、慈愛さえ感じられるほど。それと同時に内包している力がかなり増えたようで、近くに居たヒヅキは一瞬身構えそうになった。

 とはいえ、その増えた力はあまり外には出ないように制御しているようで、ヒヅキがそれを感じられたのは単に近かったというのと、ヒヅキがそういったモノに敏感であったのが大きいだろう。

 女性はヒヅキに礼を言うと、視線をフォルトゥナの方へと向ける。

「そうですね、お礼にあの娘の呪いを解きましょう。精神の方は貴方でどうにかしてください」

 ややぎこちない動きで立ち上がった女性は、まだふらつく足でフォルトゥナの許へと近づいていく。

「……相変わらずですね」

 フォルトゥナの隣で立ち止まった女性は、そう呟きながら何処からともなく剣を取り出し、それを薙いでフォルトゥナを斬る。

 しかし、斬られたフォルトゥナに外傷は無く、斬られた瞬間にフォルトゥナは剣を握っていた手を離し、身体の横にだらりと垂らした。

 それを確認した女性は、ヒヅキの方へと振り返る。

「さぁ、あとは貴方次第ですよ」

 そう告げてヒヅキへと微笑んだ女性は、顔をウィンディーネの方に向ける。ウィンディーネは変わらず気味の悪い笑みを浮かべているが、先程よりも嬉しそうだ。

「ふぅ。貴方は変わらないのね」

 ウィンディーネの方へと数歩近づくと、女性は呆れたようにそう口にする。

「そうですか? それは残念ですね。本当に………………忌々しい」

 笑みを浮かべたまま最後に呟かれたウィンディーネの言葉は、まるで世界を呪うかのような深く暗い呪詛が含まれていた。

「そう思うのであれば、自力でどうにかすればいいではないですか。貴方も存外大した事無いのですね」

 呆れたようにそう言うと、女性はヒヅキの方へと目を向ける。その先には、剣を引き抜き、フォルトゥナへと袈裟懸けに剣を振り下ろしたヒヅキの姿があった。

「……やはりあの方が器」

 そんなヒヅキの姿を見て、女性は何処か嬉しそうに薄く笑うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ