人探し79
女性の言葉に衝撃を受けたヒヅキだったが、直ぐに問い返す。
「……どういう意味ですか?」
「詳しくは分かりませんが、貴方からは別のにおいがします。それも何処となく懐かしいにおいが……」
「別のにおい?」
「今の神とは別のにおい。しかし完全に別物という訳ではないようですので、多少の傷は負うかもしれません」
「そうですが……であれば、あの現在剣に触れている女性が大丈夫なのは何故ですか?」
「無事? 何を言っているので? あの女性は既に精神が汚染されていますが?」
「精神汚染?」
「ええ。あの女性は特に神のにおいを強く感じますので、表に出るほど軽傷ではなかったのでしょう。それに、その前に既に精神が汚染されていたようですが」
「………………」
「神のにおいが強いとはそういう事ですよ」
「……治るのですか?」
「あの剣を使うことが出来るのでしたら可能性はありますが、それでも完全には無理でしょう」
「そうですか」
それは残念だと少し思いつつ、まぁいいかと思い直す。今まで通りでなくとも、少しでも役に立つならそれでいい。
「それで、この状況で私に何をしろと?」
「何も。現状でも何も問題は在りませんから。それでも何かしたいのであれば、あの剣を抜いてみてはどうでしょう? そうしたら、剣の封印も解けるでしょう」
「………………なるほど」
それに顔を離すと、ヒヅキは考える。
もしも女性の話が正しかったとして、剣の封印を解いた場合だが、その場合は神の思惑に反するのかどうか。
(もしも封印を解く事が神の意思に沿った行動だとしたら面白くないからな。精々が嫌がらせ程度だろうが、それでも十分だ。神の望まぬ方の行動をとりたいところ……)
考えながらヒヅキは剣へと近づく。フォルトゥナは変わらず動く様子は無いし、ウィンディーネも愉しそうに気味の悪い笑みを浮かべているだけ。ウィンディーネの場合、神の意思に沿おうが反しようがどちらでも問題ないだろうから、高みの見物といったところなのだろう。
あれはあまり参考にはならない。ヒヅキはそう判断して意を決すると、フォルトゥナが掴んでいる剣へと手を伸ばす。
ヒヅキはフォルトゥナの手に半ば重ねるようにして剣の柄を握る。その時に柄に手が触れるが、ピリピリとしたような感覚が触れた部分から身体中へと流れてくるような感覚に襲われた。
それは不快感は在るが、痛みは大してない。やや侵食してくるような、皮膚の下に何かが蠢くような感覚は在るが、それも限定的なモノで精神が侵されるほどではなかった。
多少の我慢で何とかなりそうだったので、ヒヅキはそのまま剣を握る手に力を込めて剣を引き抜く。
「む?」
剣は一瞬動いたものの、直ぐに固まったように止まってしまう。それからは幾度も力を入れるがビクともしない。
「ぬううんんんん!!」
何度かヒヅキは剣を引き抜こうと試みるが、最初以外は全く動かなかった。
「さて、どうしたものか」
息をついて手を離すと、ヒヅキは剣に目を向けたまま眉根を寄せる。
そもそもこの剣の封印についてよく分かっていないヒヅキは、これからどう対処すればいいのか分からない。分からないので、一度女性に話を訊くべかと悩む。
その間も特に変化は無いので、ヒヅキは女性に近づき現状を説明すると、どうすればいいのかと問い掛けた。
「それは貴方以外が触れなければいいのですよ」
「……なるほど。ですが、動かないのですが?」
「固定されているようですから、そうでしょう。ならば、腕を切り落とせばいい」
「………………そうですね」
ヒヅキはフォルトゥナの手首を切り落とそうとして光の剣が消滅した事を思い出して、肘か肩の辺りから切り落とさなければならないのかと、内心で溜息を吐くのだった。




