人探し78
ヒヅキは剣の様子を確認した後、フォルトゥナの様子も確認する。
フォルトゥナは片手で剣を掴んだまま、動きを止めている。その瞳には淀んだ暗い光を宿していて、ヒヅキが声を掛けても揺すっても反応しないので、意識があるのかも怪しいところ。
それを確認したヒヅキは、これが神の仕業であった場合、やはりフォルトゥナを傍に置くのは危険かもしれないと考えるも、今はそんなことを考えている場合ではない。今はフォルトゥナの意識を戻すか、剣の方の妙な魔力をどうにかしなければならないだろう。
「………………」
この場で唯一役立ちそうな追っていた女性は、目を動かすぐらいしか出来ないので助けにはならないだろう。
出来れば剣には触れたくないヒヅキは、消去法でフォルトゥナをどうにかしようと思考を巡らす。
(考えろ、考えろ。フォルトゥナの意識を戻す方法は何かないか……?)
ヒヅキは考えながらも、とりあえずフォルトゥナの後ろに回ると抱き着くようにして胸元辺りに手をまわし、そのまま後ろに引いてみる。しかし、フォルトゥナはそれでもビクともしない。ただ立っているだけの様にしか見えないというのに、まるで周囲の岩と同化したかのようだ。
後ろだけではなく左右にも引っ張ったりしたが、結果は変わらず。剣へと伸ばしている手も固まったように動かないので、力づくで剣から離す事はやはり無理なよう。
やはり肩の辺りから切断するべきかと考えつつ、ヒヅキはエイン達の方に目を向ける。
エイン達は、少し離れたところで座っている追っていた対象の女性の近くで苦しげに立っていた。剣から発せられる魔力に当てられて、今にも倒れてしまいそうだ。そんな状態では助けを求める事も出来ないだろう。
フォルトゥナに関しては、強硬手段に出ない限りはどうしようもない。かといって剣の方はどうかといえば、フォルトゥナよりも対処不可能である様な感じがしていた。
(しかし、フォルトゥナが剣に触れて時間が経つが、変化らしい変化は無いな…………)
周囲の確認を行って少し落ち着いてきたところで、ヒヅキはその事に気がつくと同時に、ウィンディーネの方へと気がつかれないように視線を向ける。
視線を向けたウィンディーネは、変わらぬ気味の悪い笑みを浮かべている。今までの経験からヒヅキはそれについて思考すると、視線を壁に寄りかかっている女性の方へと向けた。
(? 今動いたような?)
ヒヅキが視線を向けた瞬間、女性が僅かに頭を揺らしたような気がした。それはまるでヒヅキの方へと顔を向けた様にも見える動き。
その僅かな動きにヒヅキは見間違いの可能性も考えるが、一瞬の逡巡の後に女性へと近づき、女性の横でしゃがんで耳を近づける。そうすると囁くような微かな音を拾い、ヒヅキはより耳を女性へと近づけた。
「――め」
「え?」
「その――を――は――め」
虫の鳴くような小さな声の為に上手く聞き取れないが、何かを伝えたいのだろう。今まで声を出していなかったのは、声を出すのがきついからかもしれない。
あまりの声の小ささに、ヒヅキは髪をかき分けて一気に女性の口元まで耳を近づけると、それでやっと声を拾えた。
「その剣を壊してはだめ」
「壊せるので? しかし、それではどうすれば……」
「何もする必要はない。あれは悪しきものではない」
「そうなのですか? ですが呪いがあると聞ましたが?」
「それは今の神に関わる者に対してだけ」
「という事は、私達に対しても呪いになるのでは?」
現在の生きとし生けるもの全てが神に創造された存在である以上、それには全ての者が該当する事になる。そのはずなのだが、女性はヒヅキへと向けている視線をやや細めてそれを否定する。
「いいえ。貴方に関してはそれに当てはまらないでしょう」
「………………え?」




