人探し76
女性の肩に手を置いて軽く揺するも、何の反応もない。揺するヒヅキの手に感じる重みは驚くほど軽く、まるで中は空洞であるかのよう。
それに怪訝な表情を浮かべたヒヅキだが、おかしな点はそれぐらい。揺するのを止めて顔を覗き込むようにずるも、胸元辺りまでの長さの髪が顔を完全に隠してしまっている。
ヒヅキは躊躇いがちに、簾の様に遮る髪の毛を片手でかき分けて顔を覗く。顔の部分は髪が光球の光を遮り暗くて見えにくいが、ヒヅキの目には顔が見えた。
「!!」
髪をかき分けて顔を覗き込んだヒヅキは、そこでヒヅキの方へと鋭い目が動いたのを捉える。それと共にその鋭い目と見つめ合う形になった。
「………………」
「………………」
しばらくそのまま見つめ合う二人だが、相手はそれ以上は何もしてこない。声も発しないので、もしかしたら眼だけが動かせるのかもしれない。
それでも意識はあるようだ。この場合、生きているといっていいのかは難しいところではあるが。
そうしてしばらく見つめ合った後、ヒヅキは髪を戻して身体を離す。
「どうかしたのか?」
身体を離して立ち上がると、困惑したように考えるヒヅキに、エインが探るように問い掛ける。
「いえ、どうやら生きている? ようで」
「はい?」
ヒヅキの返答に、エインは何を言っているのだと言わんばかりの表情を浮かべる。
それに、まぁそうなるよなと納得するような表情を浮かべながら、ヒヅキは先ほどの事を説明していく。
「ほぅ。そんな事が……しかし、こんな状態で生きていられるものなのか?」
エインは周囲を見回した後に、対象の女性へと目を向ける。
「そうですね。先程ああは言いましたが、生きている訳ではないのでしょう」
「? どういう事だ?」
「この方、呼吸をしていないのですよ」
「…………どういう事だ?」
「それにとても軽い。まるで人形の様な感じがしました」
「ふむ。だが、動いたのだろう?」
「はい」
「………………どういう事だ?」
「まぁ、動く人形だということではないでしょうか?」
「そうか……それは未知の技術だな」
「そうですね」
エインと同じく対象の方へと目を向けながら相づちを打つと、ヒヅキはもう一度しゃがみ込んで女性に声を掛けた。
「話せますか?」
「………………」
しかし、その問い掛けに返事はない。
ヒヅキはどうしたものかと考えたものの、このまま話し掛けていても埒が明かないと、もう1度髪をかき分けて女性の顔を覗き込んでみる。そうすると、再度女性の鋭い目線がヒヅキの方へと動く。
「………………」
「………………」
それから見つめ合うも、相手からの返事はない。やはり喋れないのだろうかとヒヅキが考えていると、女性の視線が別の方角に動く。
それにつられてヒヅキもそちらに目を向けるも、女性の髪が邪魔でその先は確認出来ない。しかしその方角にある物といえば、と一瞬思案したヒヅキは、急いで顔を引いてそちらへと視線を向けた。
ヒヅキが視線を向けた先には、封印された剣とそれに近づくフォルトゥナの姿。
『フォルトゥナ!! 何をしている!?』
何処か異様な雰囲気を発しているフォルトゥナに、慌ててヒヅキが遠話で話し掛けるも、フォルトゥナからは何の応答もない。
ヒヅキは内心で舌を打つと、脚力を強化してフォルトゥナへと跳び掛かる。
しかしその前に剣へと手を伸ばしたフォルトゥナの方が一瞬早く、ヒヅキが一気に距離を詰めてその腕を掴んだ時には、既に剣に手を触れていた。
フォルトゥナの腕をつかみながら、ヒヅキは視界の端に何時の間にか姿を現したウィンディーネが薄っすらと笑みを浮かべているのを捉えた。
しかしそれを捉えても、今のヒヅキにはそちらを気にする余裕はない。何故なら、フォルトゥナが剣に触れた時から剣が妙な魔力を周囲へと放ち始めたのだから。




