人探し73
『フォルトゥナ。フォルトゥナは周囲に毒があるかどうかは判る?』
『可能です』
『そっか。それはよかった。それで、この周囲には害になりそうな空気は漂っている?』
『問題ありません』
『そっか』
『はい。おそらくその死体は毒物を散布されたからではなく、粘体生物に襲われたのではないかと』
『粘体生物?』
記憶を探りながらヒヅキは問い掛ける。
問い掛けた後に、そういえばそんな記述を何処かで読んだ覚えがあったような? と思い出しそうになったところで、フォルトゥナから答えが返ってくる。
『半液体状の生き物で、あらゆるものを溶かして食べますが、特に生き物の肉を好む粘体生物が多いようですね』
『ああ、そういえばそんな生物が居るのを読んだ覚えがあるな。何処で読んだかは覚えていないけれど』
フォルトゥナの答えを聞いて思い出したヒヅキは、記憶から情報を読み取りながらそう返す。
『しかし、その骨の残り具合からして、生きたまま捕食されたようですね。珍しい種のようです』
『……ああ、そういえば腐肉を好むとか読んだ覚えがあるな』
『はい。その場合は骨ごと溶かすらしいのですが、生きたままの場合は骨を残すそうです』
『なんで?』
『粘体生物の生態については不明な部分が多いので、それについては不明ですが、死体は体内に取り込んだまま移動するらしいので、生きたままだと暴れる為に途中までしか食べないのではないかと。結果として、残っていた肉が腐って無くなり、骨だけがその場に残るのではないかと推測致しますが、実際がどうかは不明です』
『なるほど。しかしそうなると、この近くに粘体生物が居る可能性が在るのか』
『はい。天井に張り付いている場合が多いと聞きますので、頭上にはお気を付けください。この洞穴は感知魔法が効果を発揮しにくい場所ですので』
『そうだね。気をつけるよ』
ヒヅキはフォルトゥナの忠告に頷くように言葉を返す。
『それに変異種の可能性も捨てきれませんので、他の方向にもお気を付けください』
『分かったよ。気をつける』
元からヒヅキは周囲を警戒しているので、フォルトゥナのその注意は無意味なのだが、それでもそれを指摘する事もまた無意味なので、ヒヅキはフォルトゥナのその心配を素直に受け取る。
光球に照らされる周囲の様子に目を向けながら、過去視で対象を追って先へと進んでいく。
しばらくそうやってゆっくりとした足取りで進むと、ヒヅキは先に球状の物体を見つける。おそらくそれが粘体生物なのだろうが、その粘体生物は壁や天井に張り付いている訳でもなければ、何かに擬態している訳でもなく、道の真ん中に球状のまま佇んでいた。
大きさは直径50センチメートル以上は在るだろう。色は濃い灰色で周囲の岩肌に近いが、それでもやや明るいので、しっかりと警戒していればまず見落とす事はないだろう。
その粘体生物は、光球の明かりに照らされても動く様子はない。ヒヅキは後方に合図を送って足を止めると、足元の小石を拾いながら粘体生物を観察する。
そのまま時が止まったかのような時間が流れ、ヒヅキは内心に勘違いだったのだろうかという少しの疑問が芽生え、手にした小石を粘体生物へと投げてみた。そうすると、粘体生物に直撃した小石は粘体生物の内部へと取り込まれる。
(やはり粘体生物で間違いはないか。だが、動かないな)
たとえ動かないとしても、このまま進むにも邪魔になるだろう。なので、どうにかしてどかさなければならない。
ヒヅキは少し思案してから近くに光球をもう1つ現出させる。
その後、粘体生物の頭上で輝いている方の光球を粘体生物へ向けてゆっくりと下ろしていく。そうして高度を下げた光球が粘体生物へと接触すると、粘体生物は小石の時同様に光球を体内に取り込んでしまった。




