人探し71
洞穴の中に少し入ったところで、ヒヅキは足を止める。
「………………」
それから周囲を警戒してみるも、何かが居るような気配はない。それでも奥の方から嫌な感じはしているのだが。
「ここはどれぐらい深いのやら」
感じる嫌なモノは、それなりに遠くに在るように思える。そこが最奥とは限らないが、それでも結構距離が在るのは判った。それは同時に、それだけ離れていても感じるほどに強大な存在だという事。
『フォルトゥナ。洞穴の中に入ったが、中の様子が判る?』
ヒヅキは過去視を発動させているのでそこまで遠くまで感知できるわけではないが、それでも近場の感知ぐらいはできる。だというのに、ヒヅキの感知では周囲の様子は何も判らなかった。
『いえ。視界の範囲と同程度でしたらなんとといった感じです』
『そうか。やはり奥の気配に近くなってきたからね』
『はい。強大な存在を感じます。ですが、脅威には感じません』
フォルトゥナの返答に、ヒヅキは頷く。その辺りはウィンディーネの言葉通りだろう。おそらく精々強くともスキアよりも少し上ぐらいか。それが単体なので、フォルトゥナが脅威に感じないのも当然であろう。
ヒヅキでも似たような感覚なのだから、確認出来ている相手に関しては油断しなければ十分に対処できそうであった。
周囲を警戒しながら、ヒヅキは半ばまで白骨化している死体に近づく。長く過去視で捉えていた者達の仲間と思われるので、調べておく必要があった。
「………………ふむ。こっちは獣人のように見えるが、こっちは違う気がするな」
近くの一体に近づきしゃがむと、ヒヅキは遺体の検分を始める。半ばまで朽ちている死体ではあるが、見た目が残っている部分もあった。例えば、身体を覆う体毛もその一つ。
「耳でも残っていれば種族がある程度は絞れた可能性も在るが、この毛並みは獣人、それも獣の力が強く出ている個体だろう」
目の前で倒れている死体の検分をしながら、ヒヅキは以前エルフの国で出合った奴隷の獣人達を思い出す。
獣人は身体能力が高いだけで見た目は人間と然して変わらない者と、全身が獣の様な体毛に覆われた者が居る。前者は数が多く、後者は数が少ない。それでも共通して獣に似た耳の形をしているのだが。
その2つの獣人だが、人間と見た目が然して変わらない獣人よりも、全身を体毛で覆われた獣人の方が格段に身体能力が高い。しかし、その分人間に近い獣人よりもやや魔法が苦手な傾向がみられた。とはいえ、獣人は元から魔法が苦手なので、それに関してはそこまで違いがある訳ではないが。
とにかく、その獣の体毛に似た毛にそう判断すると、持ち物を調べた後、ヒヅキは別の死体の近くに移動する。
「こっちは………………なんだ?」
しゃがんで視線を落としたヒヅキは、その死体に首を傾げた。
その死体は、先程の死体同様に半ばまで白骨化していたが、見たところ特徴らしい特徴は無かった。骨格や大きさも人間と然して変わらず、顔の骨が潰れているのは、それが致命傷になったという事だろう。
過去視では飛ばされたところしか視えなかったが、その時に潰れたという事か。
(だとしたら、やはり魔物やスキア同様に力が強いという事だろうな。これが神の残滓とやらにやられたのだとしたら、だが)
耳や鼻や目のような、特徴の出やすい部分は無くなっているか潰れていて判然としない。手足の長さや身体のつくりから推察するに。
「これは人間、という事でいいのか?」
そう考えたところで、別に人間が混じっていてもおかしくはないのかと思い至る。
「他の死体は…………また別の種族っぽいな」
そう思いヒヅキが別の死体に近づいていると。
『それはエルフの様です』
少し離れたところから眺めていたフォルトゥナが、ヒヅキにそう告げる。
『エルフ? どうして判るの?』
ヒヅキは足下に横たわる死体に目を落とす。しかしその死体は最も破損が酷く、原形を留めていない。まるで何かに踏みつぶされたかのようだ。
そんな死体を直ぐにエルフだと断言できたことに、ヒヅキは首を傾げる。エルフ特有の何にかでも視えたのかもしれない。




