人探し64
ヒヅキが過去視の制御に集中して時を過ごしていると、夜空の色が薄くなってきたところでフォルトゥナから声を掛けられる。
『ヒヅキ様。スキアが近くに移動してきました』
『距離は?』
『およそ5キロメートルほどの位置です』
『大分近いな』
『しかも高所に位置していますので、近づけば直ぐに気づかれるでしょう』
『ふむ。どの種類のスキアか判る?』
スキアにも種類がある。大体は見た目で判るが、特徴は見た目通りである場合が多い。
例えば四足歩行の獣型のスキアの場合、鼻が利く。実際に機能しているかどうかは別にして、においに敏感で、次いで音にも強い反応を示す。移動速度が速いので、攻撃方法は単調ながらも一瞬で間合いを詰めて襲撃してくる。大抵の者はその攻撃への迎撃が間に合わず、その前脚の一撃で命を刈り取られておしまいだ。
他に植物型。こちらは振動に敏感で、地面を移動する僅かな振動を遠くから捕捉する事が出来る。地に足を付けて移動する者に対してのみではあるが、感知範囲はスキアの中でもかなり広い。幸いなのが移動速度がスキアの中でも遅い方なので、感知が得意な者であれば接近に気がつける為に、初撃を躱すなり防ぐなりする事が出来た。それでも常人には認識できないのだが、スキアと戦い慣れた者にすれば、比較的戦いやすい相手。気をつけるべきは遠距離から攻撃してくる事ぐらい。
そういった風に、スキアは見た目によって特性が変わっている。それでも常人ではどれも速くて強力な存在なのだが。
『人型のスキアです』
『人型か。見た目は?』
『全体的に細いのですが、背丈はあまり高くはありません』
『なるほど』
スキアの中でも人型は弱い部類に入る。移動速度や索敵範囲などは普通だし、攻撃方法も素手での殴りと蹴りのみ。その攻撃も見た目により攻撃の範囲や威力が異なる。傾向としては、細いと背が高くて手足が長いので、攻撃範囲が広がる反面威力が落ちる。逆に太い場合は背が低いので攻撃範囲は狭いが、その分威力は上がる。
では今回はといえば、細くて背が低い。つまり傾向通りであれば、攻撃範囲が狭く威力が弱いという事になる。それであれば容易い相手となるが、傾向は絶対ではないので油断はできない。
『数は?』
『三体です』
『全て同じ見た目?』
『はい』
『そう。珍しいね。……通常のスキアとは違うのかな?』
『いえ。観察した限りではありますが、特性も変わりません。足も遅く、索敵範囲も並以下。戦闘能力も、一般的な冒険者数名に魔法道具を貸与すれば、一体でしたら十分に対処可能なぐらいかと』
『ふむ。そこまで弱いのか』
『あまりにも弱すぎて、現在行われている攻撃に参加できなかったのかもしれません』
『うーん。可能性としてはそれもあるのか……』
今までのスキアであれば、そもそも集団で行動する事がほとんど無かったので、そういう事はありえなかっただろうが、現在は群れで行動しているので、そういう事も起きるのだろう。この場合、スキアを統率している神の意思なのか、単純に力の理論の敗者で輪に入れなかっただけなのかで状況は変わりそうだが。
『何にしましても、いかがいたしましょうか? このままでは明日にでも遭遇すると思いますが』
『感知能力は低いんだよね?』
『はい。ですが、隠れる場所の無い道を進んでいますと、簡単に見つかると存じます』
『まぁ、それはね』
『ですので、私が遠距離で始末しますか、先行して掃除するのが宜しいかと』
『なるほど。それが確実だろうね』
距離的には近いので、フォルトゥナに先行して掃除してもらえばすぐだろう。しかしそれは、同時にヒヅキでも同じ結果に終わるという事でもあった。
少し考えたヒヅキは、過去視の制御を終えて感知魔法に集中する。それでスキアの位置や様子を把握した。
『場所は把握した。ここは私が先行して消しておくよ。フォルトゥナはその間のここの護りをお願いね』
そう言って立ち上がると、足に力を込めて標的であるスキアが居る場所へと移動を開始する。




